日本との2試合に最高指導者が注目していることを内外に示す狙い
試合が終わると悔し涙をぬぐう北朝鮮サポーターも多くいたが、なでしこに「五輪で頑張れ」と声援を送る一幕も。
「前半終了直前に北朝鮮MFチェ・クムオクのバックヒールのシュートをGK山下杏やかがゴールラインを割るぎりぎりでかき出し、ノーゴール判定となったシーン。
北朝鮮チームは抗議したが、『VTRや解説者の解説を聞いて、多くの同胞は納得した様子でした。五輪出場をかけた大一番での惜敗でしたが、日本に対する感情のしこりなども残らず、みんな、いい試合だったと思っています」(朝鮮総連関係者)
一方、北朝鮮の本国も、この試合を日本との対話の足掛かりにしようとする気配だ。試合終了から約10時間後の29日午前6時すぎ、対外向けの国営朝鮮中央通信は「重要ニュース」として「熾烈な攻防戦を繰り広げたわが国と日本チームとの間の試合は1-2で終わった」と試合結果を伝え、朝鮮労働党機関紙、労働新聞も同じ内容の記事を29日付で掲載した。
北朝鮮メディアが国際スポーツの結果をこれほど早く伝えるのは異例で、特に敗戦を報じるのは極めてまれだ。北朝鮮メディアは24日にサウジアラビア・ジッダで行われ引き分けた最終予選第1戦の結果も伝えているが、これは「今回の日本との2試合に最高指導者が注目していることを内外に示す狙い」とみられている。
金正恩氏の妹の金与正・党副部長は15日に出した談話で岸田首相の訪朝に言及し、対日関係改善の意思があることを示したが、この考えに変わりがないことを伝える強いシグナルだと関係者は受けとめている。
金与正氏の談話に関しては、超党派の国会議員でつくる「日朝国交正常化推進議員連盟」が試合前日の27日に総会を開き、執行部が拉致問題などの解決に向け、岸田文雄首相に早期訪朝を求める内容の決議採択を図っている。
「金与正氏の談話が拉致問題を解決済みだと主張しているため、これを問題視せず首相訪朝を急いで行えとの内容は時期尚早だ、などとする声が上がり文言は修正されることになりました。しかし議連の衛藤征士郎会長(元衆院副議長)は2月25日に朝鮮総連幹部2人と会ったと総会後に記者団に明かしており、北朝鮮との関係を動かすことにかなり積極的です」(大手紙デスク)
サッカーファンの視線とは別に、今回の日朝戦は国同士の関係が動き始める転換点になったと、後に振り返られるようになるかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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