開催にあたって、村上もとか先生にお話をうかがった。
――まさにコロナ禍での展示会準備になったかと思いますが、本日無事内覧会を迎えてどんなお気持ちですか?
村上 実は今日は偶然僕の誕生日なんですが、ちょうど1年前は一度目のワクチン接種を朝一番で受けていたんです。今年がデビューから50年になることは頭にあったのですが、世の中の状況を考えると何かできるとは思っていませんでした。でも、集英社の担当編集さんが「ぜひやりましょう!」と動いてくださって。節目の年にこうした催しを開くことができたことは、本当に望外の喜びです。
――先生は『JIN—仁—』『侠医冬馬』と、歴史の中で病気と戦う医師を題材にした作品を手掛けられています。現代の状況と過去の歴史を重ねたときに、何かお感じになったことはありましたか?
村上 まず、『侠医冬馬』を描いている最中にコロナ禍が起きたことに「嘘だろう!?」と思ったんですが……。そこで驚いたのは僕自身も含めた世の中の人々の怯え方でした。未知の病気に、死んでしまうんじゃないかと怯えてパニックを起こし、疫病退散のマスコットが流行り、ワクチンができても賛成したり反対したりする人がいる。
そういった世の中の動きを見ていると、幕末の人間も現代の人間も、自分が想像していた以上に変わらないんだと感じます。
また、『侠医冬馬』の時代のあとに明治維新の大激動が起きるように、パンデミックのような出来事があると世の中の歪みが明らかになって大きく世の中が変わるんだということにも気づかされました。ウクライナとロシアのことも今回のパンデミックと無関係ではないでしょうし。そう考えながら『侠医冬馬』を描いていると、100数十年前のことをベースにしていながらリアルタイムのドキュメントを描いているような気持ちになります。
物語が完結するころには現実の世界ももっとすごく変わっているだろうと予感していますし、その変化に応じて『侠医冬馬』のラストシーンも変わるかもしれませんね。
――今回の展覧会を楽しみしているファンの方々にメッセージをお願いします。
村上 漫画には、それを読んだ時のことを思い起こさせる力があると思います。僕自身、何十年ぶりに引っ張り出された原稿を見るとそれを描いたときの仕事場の様子が生々しく蘇ってきて、この50年があっという間だったと感じました。
ずっと読んでいただいている方、子どもの頃に読んでいたという方、その漫画が描かれたころにはまだ生まれていなかった方。いろいろな方に僕が50年間描いてきたものを改めて見ていただいて、当時していたことや憧れていたもの、その漫画を一緒に読んだ友達を思い出したり、当時はみんなこんなものを見ていたんだ、といったことを感じながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
展覧会が行われる東京・弥生美術館は東京大学農学部のほど近く。近くには東大理学系研究のための植物園・小石川植物園(旧小石川薬園・養生所)や、牛痘を広げた蘭学者・緒方洪庵の墓所(向丘・高林寺)もある。
今!だからこそ、展覧会鑑賞がてら足をのばしてみるのもおすすめだ。
【展覧会に行く前に、ぜひおさらいを】