手配書が張られていた銭湯店主は「気づかなかった」
銭湯は自称「桐島聡」が住み込みで働いていた工務店から徒歩20分ほどで、5年ほど前までは毎日のように訪れていたという。銭湯の男性店主も、男を鮮明に記憶していた。
「十数年前に私が店主を引き継いだころ、すでに常連のお客さんだったことは間違いないので、20年以上は通われていたと思います。ほぼ毎日のように午後3時から5時の間、遅くても午後6時までに来られていました。サウナは利用してなかったので、1時間前後で帰るという流れでしたね」
スウェットやジャージといった動きやすい服装に、タオルや石鹸を入れたリュックを背負っていた男は、ここでも“ウチダ”で通っていた。
「ウチダさんはよく、入浴後に脱衣所でストレッチをしてました。準備体操みたいに膝とかふくらはぎを伸ばしたり、身体をひねるようなやつです。健康的な人でしたよ。番台にいる私とも軽く話すこともよくありました。
『今日は暑いねー』なんて天気の話をすることもあれば、浴室で大声を出すようなマナーの悪いお客さんがいると『変な奴らがいたよー』なんて報告してくれることもありました。扇風機をつけるお客さんがいると、『体が冷えちゃうな』と愚痴をこぼしていたので、“寒がりなお客さん”という印象です」
“ウチダ”はほかの常連たちとも会話を交わす、気さくなおじさんだったという。
「私や常連さんたちと頻繁に話すくらいなんで、挙動不審だったり人目を忍ぶようなことはまったくなかったですね。ところが5年前くらいから、パッタリ顔も見せなくなって、どうしちゃったのかなとは思っていたんです。それで、久しぶりに顔を見たのが今回の報道だったんで、かなり衝撃を受けました。ほかの常連さんたちも『まさかあの人がね、びっくりだよね』と驚いてましたよ」
銭湯には「桐島聡容疑者」の手配書が掲示してあったが、店主を含めて気づく人はいなかったのだろうか。
「この手配写真は、ウチダさんが来なくなったコロナ禍のころから貼られるようになったものなんですよ。前から張ってあればもしかしたら気付いたかなあ。でもこの手配写真を間近に見るようになっても、ウチダさんが思い浮かぶことはなかったですね」
常連客の70代の男性にとっても、気の置けない銭湯仲間だったようだ。
「まさか指名手配されてた有名人だとは思わなかったな。銭湯でよく顔を合わせるようになって、いつのまにか『今日はもう仕事終わり?』みたいな話をするようになって、そこから土木関係で働いてることを聞いた気がするね。話し方も静かで穏やかで、それでいて気さくで、湯船に浸かってゆったりと話ができるやつだったんだ」