スマホ読者を意識し「読みたい!」と思わせるこだわり
――縦スク作品はコマ割りも独特ですよね。表現方法で気をつけていることはありますか?
セモトちか スマホで読むので1つ1つのシーンのサイズ感は、気にしていました。縦スク作品は時間の経過がわかりやすい一方、場面がどこかわかりづらくなってしまいがちなので、全身のコマを5コマに1回ぐらい入れるようにしています。
――担当編集の北室さんから見て、『サレタガワのブルー』の縦スク作品としての魅力はどこだと思いますか?
北室 セモト先生はデビュー作から縦スクで描いてらっしゃることもあり、縦スクロール作品ならではのリズム感、場面展開の仕方などの感覚値が優れているなと思います。
実際、1話のネームに関してはほぼ一発OKだったんです。暢の好感度や、ここから不倫が始まるんだなと匂わせるような雰囲気、縦スクロール特有のテンポの良さもばっちりでした。
――セモト先生は縦スク作品だからと意識されて描いたポイントはありますか?
セモトちか 縦スク作品は通常のマンガよりも、カジュアルであることが大切かなと思っています。忙しい現代人が空き時間にスマホで気軽に読むには、テンポが良くないといけないので、そこは常に意識していました。
あとは、「続きが読みたい!」と思ってもらうために、毎回ヒキは意識していましたね。オチが弱いと「大丈夫かな?」と心配になってしまって、何度も何度も描き直していました。
北室 たしかに「ヒキ大丈夫ですか⁉」と聞かれて、「大丈夫だよ」と返すやりとりは何度もしましたね。とにかくそこに細心の注意を払って描いてくださっていました。
――現在は、キャラクターたちの離婚後の人生について話が展開していますね。あれだけ非難されていた藍子の行く末を読んだ読者から「成長してほしい」というコメントも見られるようになりました。
セモトちか 藍子は浮気相手を本気で好きになってしまっただけですからね。強くて良い女なのに幸せになれないタイプなんですよ。北室さんも藍子が大好きですよね。
北室 ただただ「すごく恋をしたいだけの人」なんですよね。藍子が周りの人のことを考えられるようになれたら間違いなくイイ女なんですけど、そこがなかったから、自己中の恋愛体質女みたいになってしまっているだけなんです。
北室 周りを考えられない子供っぽいところはあるにせよ、すごく純粋ですからね。それに藍子のような恋愛体質な人は実際に多いと思います。「彼氏に誘われたら友達との約束を断る」とか、そういった人のちょっとパワーアップ版なだけ。だから、彼女を身近に感じる読者も多く「藍子に成長してほしい」という親心を抱いてしまうのかなと思います。
セモトちか 不倫した人も、された人も、その後の人生は続きますからね。藍子に対して「天罰を!」という声もありますし、「そろそろ助けてあげなよ」という声もあり。藍子の人生がどうなるかは、最終回でのお楽しみですね。
――『サレタガワのブルー』はどのように展開していくのでしょうか。読者の方にメッセージをお願いします。
セモトちか 実はもう最終話までのストーリーは完結できています。台本はできているので、あとは描いていくだけですね。丸3日かけながら、いろんなキャラクターを自分の中に憑依させて台本を描いたので、楽しみにしていてほしいです!
――縦スク作品はこれからもどんどん増えていきそうだなという印象を持っています。セモト先生のように縦スク作品を描くことに挑戦したい人へ一言お願いします。
セモトちか 私自身、社会人を経験した上で「マンガを描いてみようかな」と思いデビューに至ったので、縦スク作品は取り組みやすいんじゃないかなと思います。横読みは、レジェンドマンガが凄く多いですけど、縦スクの世界はまだ新しいですし、今の時代にも合っているかなと。漫画家の夢を諦めた人にも挑戦しやすいと思うので、ぜひ一緒に盛り上げていただきたいです!
――ありがとうございました。
“不倫したくなくなるマンガ”というキャッチコピーを体現したような、ゾッとするような瞬間が何度も押し寄せる同作。リアルな心理描写と臨場感、そして、これまでの不倫マンガにはなかった多くの学びが詰まっている。セモト先生と担当編集の北室さんに話を聞いて、同作が縦スクマンガNo.1ヒット作となった背景には、多くの人への取材や、日常にあるさまざまな観点からの着想があり、研究熱心な著者だからこそ作り上げることができた作品だと感じた。
不倫を“シタガワ”と“サレタガワ”。その両者の現実的な悲しみや苦しみを描きながらも、それらを乗り越えて生きていく、その先のストーリーは一体どうなっていくのか。これまでも、予測できない数々の展開を迎えてきた同作のラストに期待せざるを得ない。
作品情報
サレタガワのブルー
セモトちか
集英社マンガMee(https://manga-mee.jp/)にて配信中
https://manga-mee.jp/trial_reading/sareta_001/trial_001.html
6月23日には9巻が発売! 作品情報はこちらへ
取材・文/瑞姫