摩訶不思議な舞台になると思う
――『バイオーム』のオファーを受けた率直な感想は?
最初に朗読劇と聞いて台本を読ませていただいたんです。上田(久美子)先生がお書きになった物語はものすごくて、「本当にこれ、朗読なの……?」っていう感じ。まだ稽古が始まっていないので、どうなるのか僕にも想像がつかないです。朗読劇は一度経験したことがあるのですが、それは無観客で収録したもの(『劇場の灯を消すな! Bunkamuraシアターコクーン編 松尾スズキプレゼンツ アクリル演劇祭』で、井上ひさしの『十二人の手紙』より『泥と雪』を朗読した)。大竹しのぶさんと手紙のやり取りを朗読する内容で、稽古も場当たりで一度読んだくらいでした。その時は瞬間的に出る感情を表現する楽しさがありましたが、今回は本当にどうなるか……。
――スペクタクルリーディングという名前がついていますが。
まだ何がスペクタクルなのかわからないのですが、演出の一色(隆司)さんのお話をお聞きすると、カーテンに映像を映したり、舞台機構も使うそう。朗読劇に馴染みがない方も楽しめるような、摩訶不思議な舞台になりそうです。
――声だけで表現する難しさは?
やっぱり体と共に表現するものよりも、声だけで情報を伝えなければいけないので、その部分はしっかり意識しながら演じなければと思います。ただ、このメンバー(花總まり、古川雄大、野添義弘、安藤聖、成河、麻実れい)が揃っていて体を使わないのはもったいないとも感じるので、そこは見てからのお楽しみになるかと思います。「朗読劇だと思って行ったら、すごいものを見た!」みたいになればいいですね。
8歳を演じることは、不安でしかない(笑)
――植物の世界と人間の世界が複層的に描かれる作品で、勘九郎さんが演じるのはルイとケイという8歳の男の子と女の子ですね?
あえて子供っぽくしなくてもいいとは言われていますが、40歳の私が演じることは不安でしかないです(笑)。ルイとケイは、欲の塊のような大人の世界で生きる子供たち。僕たちもかつて子供だったはずですが、いつの間にか欲や感情に流されて、純粋な心が失われていっていると思うんです。うちの次男が役と同世代なので、子供から出てくる言葉や行動は、演じる上でよく研究したいと思いますね。
――他のキャストのみなさんは人間と植物の対称的な2役を演じられますが、勘九郎さんが演じるルイとケイは?
僕の場合はどちらも人間ですが、対称的ではあると思います。ルイはえらく大きなお屋敷で生まれ育った政治家一族の1人息子なんですけれども、拠り所が植物なんです。お父さんのことは好きですが、お母さんからは愛されていないという思いがすごくあり、おじいさんも威圧的。逃げ場がない状況のなかで植物との対話に安らぎを見出すんです。そんなルイを、ケイは冷静な目で見守る存在です。
――2人の間で会話があるということですか?
ルイとケイで喋ることが多いですね。2役を1人で演じなければいけないので、それは大変ですよ。落語のようにするのとも違うし、顔を右と左に向けて演じ分けるのも違う気がしますしね。なんだかとてつもなく難しいものを提示されています。
――植物が大好きなルイと勘九郎さんに、共通点は?
私は真反対な性格でして。土の上で裸足になることはもちろん、海に普通に入っていけないくらい汚れたりするのが苦手。植物は嫌いではないですし、妻に花をプレゼントするのは好きですが、虫がつきにくい花を選ぶようにはしますね。ルイやケイではなく、僕には大人の役をやらせた方がよかったかもしれません(笑)。
――舞台や映像作品にも積極的に出演されていますが、その経験を歌舞伎にフィードバックすることはあるのでしょうか?
歌舞伎は独特の演出や手法があるので、他の作品で経験したことを持ち帰るのは難しいんです。ただ、さまざまな作品で場数を踏み、度胸を試される経験を積むことは、中村勘九郎という役者が成長する上で大いに役立っていると思います。今回も才能豊かな共演者の方たちと一緒に作品を作り上げていくことが楽しみですし、いろんなものを吸収したいと思っています。