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肉について、体に良い・悪いと議論されることが多い。発端は、IARC(国際がん研究機関)が2‌0‌1‌5年、赤肉(牛、豚、馬、羊などの肉)を「おそらくヒトに発がん性を持つ」というカテゴリーに分類したことだ。しかし、健康な人にとっては魚よりも肉のほうがスピーディに生きるエネルギーを生み出し、老化の進みを遅くするといえるだろう。

人生後半には「高タンパクな肉」を

抗加齢医学の国際的権威であるクロード・ショーシャ博士から指導を受け、高齢者医療に約30年関わってきた和田秀樹医師(ルネクリニック東京院院長)は「健康な日本人は、まだまだ肉によってタンパク質を摂らないといけない」と指摘する。

「アメリカ人の一日あたりの肉の摂取量は約300g。死因トップが心疾患で、だから『肉が動脈硬化の原因』のように言われます。けれども日本は心筋梗塞で亡くなる方の10倍、がんで死んでいます。アメリカ人と同じ土俵ではないのです。肉は免疫機能の役割を高め、血管の材料になります。かつては上の血圧(収縮期血圧)が160㎜Hgくらいで脳卒中が起きましたが、今は栄養状態がよければ200㎜Hgに達してもそう簡単には血管が破れません。それは動物性のタンパク質の摂取増によって脳血管が丈夫になったからです。

肉の不足は、例えるとゴムの入っていないタイヤみたいな、破れやすい血管になってしまいますね」

IARCでは全世界地域での赤肉の一日摂取量を「約50~100g、200g以上の地域も含む」としているが、和田医師が言うように日本人の一日あたりの摂取量は赤肉50gと世界的にも低い。国立がん研究センターは「日本人の平均的な摂取量であれば、リスクは無いか、あっても小さい」とコメントしている。

それどころか肉は、日本人の長寿に貢献してきたといえよう。今から100年前の日本では大豆などの植物性タンパク質を摂取するばかりで、平均寿命は30代後半だった。欧米諸国に比べて10歳以上の差を付けられていたのだ。それが肉などの動物性タンパク質の摂取量増加とともに、日本人の平均寿命は1980年代、世界トップクラスに達する。

日本ポリフェノール学会理事長の板倉弘重医師(東京アスボクリニック名誉理事長)は「肉は良質なタンパク質の重要な供給源。そしてタンパク質は体の組織をつくるもととなる栄養素です」と説明する。

「肉に含まれる豊富なタンパク質は、細胞膜や細胞骨格をつくり、体の筋肉や皮膚などを構成します。ほかにもビタミンB12、亜鉛、ビタミンB1、ナイアシン、ビタミンB6などが肉に多く含まれますが、これらの栄養成分が足りなくなると筋肉や免疫機能の低下、アミノ酸不足が引き起こす神経性症状などが起こり、老化に拍車がかかります。筋肉が維持できないということは、若さを保つどころか、要介護状態に陥ってしまうのです」

肉に含まれるタンパク質は消化管でアミノ酸などに分解されて肝臓に送られ、全身に運ばれる。各組織に送られたアミノ酸は、筋肉や血液、皮膚、髪の毛など、それぞれの組織の構成成分になる。タンパク質が不足すると新陳代謝がスムーズに行われない。

人生も後半になったらなにより高たんぱくのお肉を。老化物質の蓄積を阻止してくれる最強の”若返り肉”とは_1
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その上60歳を過ぎると、血液中のアルブミン、コレステロール、ヘモグロビンという栄養状態を表す数値がどんどん下がっていく。血液中のこれらの栄養成分が落ちていくと、同時に体重が減ってしまう。中年でメタボと言われて脂肪が増えている間はまだいい。しかし人生の後半、自然に体の脂肪が減ってきたら、それは老化の始まりだ。そこで効率的に血液中の栄養状態を表す数値を上げるスタミナ食が、肉なのである。

しかし、肉なら何でもいいわけではない。肉はおよそ5~7割が水分。残りが「タンパク質」や「脂質」から構成される。その割合によって肉の柔らかさや栄養素量が変わってくるわけだが、老けないためには同じ100gあたりの肉を比較した時に「タンパク質の割合が高い肉」を選ぼう。

脂質が多い肉を食べたほうが、肌がツヤツヤしそうなイメージを持つ人もいるかもしれないが、脂が皮膚を作るわけではない。新しい皮膚の再生に必要なのは、あくまでタンパク質だ。脂質の高い肉は、一言で言うなら「老ける」「太る」ほうに傾く。

日本臨床栄養協会理事の大和田潔医師(あきはばら駅クリニック院長)も、「農作業や工事の作業員など日常的にものすごく体を動かす人なら、脂質が高い肉もエネルギー源になるでしょう。しかし、普通の体格の人が脂質が多い肉を摂ると、カロリー過多になって蓄積されます」と解説する。