ハマスの首謀者たちの暗殺専門組織「ニリ」を新設

シンベトの工作のなかで、重要なのが盗聴だ。

携帯電話の盗聴も当然行っているが、パレスチナ自治区内に潜入して盗聴器を仕掛けるといった工作では、ミスタービムの役割が重要だ。ハッキング工作でも、情報を抜き取るウイルスを標的のデバイスに感染させるには標的の交友関係や日常の行動を探るのが有効だが、そうしたところでもミスタービムが役立つ。

今回の奇襲を見抜けなかった背景に、ハマス側が「しばらくイスラエルと戦う気はない」ふりをする偽装工作を仕掛け、イスラエル情報機関がまんまと騙されていたことが明らかになっている。ただ、ガザでの情報収集活動はシンベトの主任務のひとつで、完全にやめていたわけではない。最近のシンベト内では「ガザより西岸地区ほうに不穏な動きがあり、監視強化が重要だ」と考えられたため、一部の人員を西岸地区監視に回し、ガザ監視の手が若干薄くなっていたということだろう。

イスラエル軍の若い女性兵士
イスラエル軍の若い女性兵士

それでもシンベトは、冒頭で記したようにハマス幹部や人質の所在情報をある程度は入手できている。軍や他の情報・治安機関よりは、まだ情報収集の手段を残しているのだ。

なお、シンベトはハマス側による襲撃の首謀者と参加者を暗殺する専門組織「ニリ」を新設したと公表している。一部報道ではまるで“凄腕の特殊部隊”のようなイメージで伝えられているが、現在のような戦闘状態では、ガザでの襲撃作戦は前述したように軍が主導する。ニリはおそらく情報収集を主導するいわば特別捜査チームのようなものだろう。ただし、戦闘地域ではない西岸地区なら、機会があれば暗殺も実行するだろう。

他方、有名なモサド(諜報保安庁)は国外担当なので、国外にいるハマス、あるいは連携組織のヒズボラ、あるいは黒幕のイラン工作機関などが監視対象になる。ただし、そうした調査の過程で、ガザにいるハマスの重要な情報もしばしば入手しているはずだ。その追跡調査では、ガザ地区内に対するある程度の独自調査は行っているものとみられる。もちろんケースによってはシンベトとの連携もあるだろうが、両組織は完全に独立した別組織なので、基本的には作戦は個別に行なう。