※本記事は春日武彦『恐怖の正体――トラウマ・恐怖症からホラーまで』から抜粋・編集したものです。
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甲殻類恐怖
わたし個人の恐怖症について述べると、甲殻類恐怖に該当する。
まず、海老と蟹が駄目である(それなのに世の中には、草履海老とかヤシガニとか、ちょうど海老と蟹との中間みたいな姿の恐ろしい生き物すらいる!)。
絵や写真を見ただけで、うろたえる。もちろん蝦蛄だって駄目だし、ヤドカリも駄目である。あんなものを美味しいと喜ぶ神経が分からない。それどころか咀嚼して体内に取り込むという行為そのものが、理解の埒外である。
姿かたちがおぞましく、料理の中に少しでも甲殻類が入っていたら、たとえそれを取り除いても、既に「汚染」されているという理由で拒絶せずにはいられない。当然のことながら昆虫も駄目で、触るのも嫌だ。つまり外骨格系の生き物全般が駄目なのである。
基本的には嫌悪感が先行する。前章でも述べたように、「危機感」の代わりに「嫌悪感」が恐怖の発現に関与する。ああ、嫌だ、おぞましい。こんなグロテスクな生き物と自分とが地球上で共存していること自体が不条理であり「ぞっとする」。ぞっとするにもかかわらず目を逸らすことができず、わたしは全身を硬直させたまま、いよいよ恐怖めいた気分がエスカレートしていく。
ではなぜ甲殻類は(わたしにとって)グロテスクであり嫌悪感を惹起するのか。その理由を以下に挙げてみよう。