「ああ、バイト2時間弱の時給分か……」

ただし、2000円に納得している人はネットに書き込みなどしない。SNSで苦言など呈さない。黙ってその金額を払い、今までどおり好きな映画を観に行く。それに、四半世紀を「一般1800円」で過ごしてきた世代と、そうでない世代では受け止め方に差があるだろう。

そこで筆者は今年7〜8月、関東圏および地方の大学生約20名に「一般映画料金2000円を高いと思うか、妥当だと思うか」を直接ヒアリングしてみた。

なお、TOHOシネマズは今回の値上げ対象に大学生以下を含めなかったので、現在の彼らの鑑賞料金は今までと変わらず1500円(大学生)である。他シネコンも同じくだ。それゆえ彼らには、社会人になったら2000円になるが、という前提で話を聞いている。

また、映画について質問することを事前に伝えずに協力してもらったので、映画が好きな学生も、そうでもない学生も混じっている。これが大学生の平均だとは言い切れないが、ひとつの参考として見ていただきたい。

まずは「高い」という意見。

「サブスクなら月1000円とかで見放題なのに。1本観るだけで2ヶ月分って……。大画面・大音響にはそれほど価値を見い出せない。どう観るかにはこだわりがないので」(女性・19歳)

「映画館は結構行くほうだが、2000円と聞くと、『ああ、バイト2時間弱の時給分か……』と思ってげんなりする」(女性・19歳)

ちなみに、大学生の仕送り額はここ30年で最低水準にある。今の大学生はとにかくお金がない。

「大学新入生の月平均仕送り額から家賃を除いた生活費」

映画料金2000円時代突入! 実は33年でわずか400円の値上げ幅、それでも不満が噴出する日本経済の停滞と、その先に待ち受ける文化的危機_3
※東京、神奈川、埼玉、千葉にある9校の私立大学を対象。
東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査」2020年度をもとに筆者作成
稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)より
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たまにしか行かないので値上げは「別に」

映画館の鑑賞体験に大きな価値を見出す学生もわずかながらいた。

「配信で観るのとはまるで違う体験なので、2000円でもいい。大画面といい音響はもちろん、その作品をどうしても映画館で観たい人たちと同じ空間にいること、始まる前のワクワク感、ポップコーンの匂い、そういうのも含めた料金だと思う」(女性・20歳)

「高いとは思うけど、仕方がない」という学生ほか、「100円の値上げ幅は些末」と捉える学生も複数名いた。

「1900円とたいして変わっていないと思う。どうしても観たい人は行くのだから、別にいいのでは」(男性・20歳/他に2人が同意見)

ただし「1900円とたいして変わっていない」と答えた3名は、日常的あるいは定期的に映画館に行く習慣がほとんどない。映画は基本的に配信で視聴。友達から強めに誘われるなどよほどのことがない限り、映画館には行かないそうだ。

彼らが2000円を「妥当」だと言えるのは、映画が日常的な娯楽ではないからだ。たとえるなら、卵や牛乳やパンなどの日配品が100円上がったら大きく抵抗するが、ごくたまにしか買わない食材が100円上がっても「別に」としか思わない。