研究や論文を完成させることに勝る快感はない
「ん……」
シェリーさんはかなり時間をかけて考えた。これまで、この件について考えたことがなかったようだ。
「感覚かなぁ……。学歴よりも話が合うかどうか……」
ということは、そんじょそこらの庶民男性では、とても釣り合いそうもない。
「たぶんね」
(やっぱり……)と、私はため息をついていた。
話が合うということはシェリーさんと同等、またはそれ以上の賢い人を望んでいるのだ。感情で動きやすいタイプの人は、惹かれてしまったら条件など大したことではなくなってしまう。ところがシェリーさんのような一目惚れなど絶対しないタイプの人は、まず条件の最低ラインを決め、それに満たない人はふるいにかけるまでもなく落としていく。恋をして夢中になるという、ステキかつ厄介で幸せでもあり寂しくもあり……といった経験をしたことがないのだ。
それはもったいないと私なら思うが、シェリーさんにとっては、恋人や恋愛よりも研究や勉強のほうが、よっぽど面白いということなのだ。
「楽しいですね。研究のほうに興味が行っちゃってる。勉強するの、大好きだから。とにかく私、ずーっと忙しいんです。いつもやることがいっぱい」
とはいえ、忙しくても興味がなくても、性的欲求というのは別モノかもしれない。頭と体が別の欲求をすることだってありえる。シェリーさんの体は、性的欲求というものを起こすのだろうか。
「いや、時間ないんで。性的欲求なんかもないですしね」
と、シェリーさんは、すこし高い声を上げて笑った。無理しているようには思えなかった。肉体的快感の経験も求めていないとすると……。私はシェリーさんにとっての快感を勝手に探していた。そして見つかった。いい研究結果が出た時ではないか──それがシェリーさんにとっての喜びでありエクスタシーなのではないのか。私がそれをシェリーさんに告げると、
「快感かなぁ……? でも、とても楽しいです。研究をやり遂げたという達成感があります。だから毎日、原稿を書くか、本を読むか、インタビューで誰かに会うかを続けられるんです」
小さな顔にピンク色が加わったように、私には見えた。忙しい忙しいとシェリーさんは言うが、研究のために相当な努力と勉強を重ねているのだ。だからこそ論文が完成したり、研究結果が出た時、満足感が得られる。それは、苦しく厳しい練習を重ねて試合で勝った時のアスリートの気持ちと似ているかもしれない。
つまり研究や論文を完成させたその瞬間に、快感の頂点に登りつめることができるのだ。となれば、この快感に勝つ男性を見つけるのは、相当難しそうだ。
「うん」
シェリーさんは、他人事のように軽く言った。
「でも、別にいなくても」
その言い方は、小気味良いほどさっぱりしていた。これまで人を好きになって恋愛したことは、「そんな時間はない」ので一度もなかったそうだ。このままいくと、男性経験だけでなく結婚もしないで、研究を一生続けていきそうな予感がする。するとシェリーさんが、
「結婚制度は反対です。私は結婚しないかもしれない」
はっきりとした口調で主張した。
3へつづく
#1 【35歳大人処女のリアル】なぜ聡明でキュートな才女は30歳を過ぎても処女でいることを選択したのか?
#3 【35歳・大人処女】大好きな木村拓哉がアプローチしてきたとしてもNo! 「まずは友達としてご飯」「顔いいね、くらい。景色と一緒。そんなもん」
文/家田荘子