「地獄」の集団生活
たとえば、本田さんが2年生のとき、同室になった1年生のひとりは、本来同級生であるはずの女性だったという。
「彼女は『適応障害』と診断されて留年し、2度目の1学年でした。“上”が『復学プログラム』【4】を準備したということだったのですが、私たち2学年はともかく、4学年の部屋長たちさえ、直前まで事情を知らされていませんでした」
そして始まった同じ居室での集団生活は、文字通りの「地獄」だったという。
「彼女は朝起きられないので、当然、清掃はできません。清掃だけじゃなくて、ほとんどの服務ができないので、他の1学年や私たちがやるしかない。座っているだけで済む授業は受けられますが、すぐに疲れてしまうので(1学年が全員参加することになっている)遠泳訓練にも参加せず。『とにかく、なにがあっても彼女を叱るな』と指導官から厳命された部屋長は、対応に苦慮していました。
ほとんど何もできていないので、この1年が過ぎても彼女は2学年には上がれません。そんなこと、みんなわかっているのに、指導官も当局も何もせず、私たち(居室の)学生にすべての負担を押しつけるだけでした。
本当にその子のことを思い、その子を復学させたいなら、少なくとも同室になる最上級生たちには事前に説明の機会を設けて、復学プログラムと連動した居室におけるケアの計画を立てるとか、服務を満足におこなえないメンバーを抱えるという、その居室の負担への配慮があってもいいと思うのです」
たまりかねた上級生たち【5】が、指導官に抗議したこともあったそうだ。
「指導官から『我々だって苦労しているんだ』などと他人事のように言われ、部屋長は呆れていました。その指導官によれば、本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」
#2へつづく
#2 女子学生への公然セクハラ、シャワー室の盗撮、頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】
【1】編集部は当該の任官辞退者に面会し、身分確認をおこなった。匿名での情報提供が条件とされたため、個人特定につながる情報を一部変更した。
【2】防衛大学校の学生は、月に約12万円の手当を支給される特別職の国家公務員である。卒業後は、一般幹部候補生(曹長の身分を持つ自衛官)として、陸海空の3自衛隊のいずれかの幹部候補生学校へ進む。
【3】本田さんによると、既出の記事「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」と言われる防衛大学校の実態。で、新井さん(仮名)が証言した「下級生に吐くまで食事を続けさせた上級生」は、その後、処分を受けたそうである。
【4】心身の調子を崩した学生を復学させるために、個々人に合わせて組まれた特別なカリキュラム。
【5】当時の4年生および3年生からは、退校者と任官辞退者が出た。
【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】
#1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件
#2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育
【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】
#1 望月衣塑子:「教育者としての絶望」
#2 大木毅:「自衛隊が抱える病い」
#3 現役教官:「学生を変質させるカリキュラム」
#4 石破茂:「国防を真剣に考えると疎んじられる」
#5 石原俊:「防大の抜本的なガバナンス改善は急務」
【元防大生の声】
#1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて…
#2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」
#3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」
【防大生たちの叫び】
#2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…
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