3位イクラ、2位いか、1位は? 止まらない生鮮魚介の価格高騰。背景には環境問題も
物価高がいわれて久しいが、スーパーに行けば、入口付近でまず最初に目に飛び込んでくるのが、生鮮食品の値上がりだ。生鮮食品は過去10年間では約31%の価格上昇、コロナ禍前の3年前と比較しても約11%上昇している。なぜこんなことになっているのか? 元日銀で第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の『インフレ課税と闘う!』より一部を抜粋、編集してお届けする。
インフレ課税と闘う!#12
日本の事業者が「買い負ける」理由
6位のししゃもは、アイスランドやノルウェーといった北欧の漁場で禁漁をしたため、日本に輸入されなくなったことも大きい。水産資源の保護に動く国々は、保護を優先して日本への輸出を絞ってくる。日本でも一時は国内産のししゃもは絶滅危惧種に近いとされた。レッドリストには、クロマグロやニホンウナギ(天然ウナギ)が載っている。乱獲を慎むような動きが強まることになる。
10位のぶりは、約4割が養殖である。養殖のエサは魚粉、小麦粉、大豆油粕などの粉末をペレットにしたものだ。これらも価格上昇しているから、養殖魚介の生産コストも上がる。
水産資源の不足の問題には、中国などアジアの国々が、魚を多く買い付けるようになったことも、日本にとっては不都合だ。特に、中国は所得水準が高まり、日本の事業者が「買い負ける」ことも起きている。間接的に、「買い負け」が起こっているのは、日本から輸出される水産物についての事情もある。
例えばほたて貝は、日本から海外に輸出されて成功している水産品の一つだ。日本産のほたて貝は身が厚くて人気がある。海外の顧客が高く買ってくれることは、日本国内に供給するよりも、海外に輸出する方が有利という環境を作る。世界市場が巨大に膨張するほどに、相対的に日本市場が小さくなっていることが、日本が「買い負け」する原因となっている。
文/熊野英生 写真/shutterstock
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2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?
コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!
30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。
これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。
昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。
しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
個人の防衛手段として外貨投資や、副業のすすめなど、具体的な対処法や、価値観の切り替えなども指南する、著者渾身の一冊!