「蓄音機の聞きやすさ」から着想を得る

スピーカーにはさまざまな種類や形状があるが、電気信号を空気の振動に変換する基本的な原理は共通している。たとえば、据え置き型のスピーカーでは、変換のための振動板が円錐状のコーン型をしていることが多く、これを見たことがある人も多いだろう。

家庭の「テレビの音がうるさい!」問題を解決。“音のバリアフリー”実現で大ヒットを記録する「ミライスピーカー」とは? 「聞こえやすさ」への飽くなき追求_2
一般的なコーン型の振動板は前後に直線方向に振動する

一方で、「ミライスピーカー®」ではメインの振動板の形状が弧を描くように湾曲させた「1枚の板」となっている。この曲がった形状こそが、音量を上げなくてもクリアな音声を発生させる「曲面サウンド」という同社独自の特許技術の重要なポイントだ。

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 「ミライスピーカー®」の内部構造。曲面振動板全体から発生した音波が室内の壁などに反射することで音圧が下がりにくいと考えられている

音の聞こえ方を文章で表現することは難しいが、「クリアな音」といっても音源を忠実に再現する「高音質」なスピーカーとは少し意味合いが異なる。「ミライスピーカー®」の特徴は、スピーカーから少しずつ距離を取るように遠ざかっても、音声の聞こえ方がほとんど変化しない、というものだ。

今までのスピーカーは離れるほど音が聞こえにくくなるので、アンプで電気信号を増幅して音量を上げるか、振動板のサイズや材質を工夫するのが一般的であった。

一方の「ミライスピーカー®」では、小さい音量のままでも音圧が維持されて耳に届くので「聞こえやすさ」が生まれる。しかも、音圧が下がらないように音が進む方向と角度(指向性)を狭める方法ではないため、部屋のどの場所にいても聞こえ方の差が少ない。

「曲がった板から大きな音が出る現象自体は、古くから知られています。『ミライスピーカー®』の開発は、弊社の創業者が音楽療法を研究する大学教授から『蓄音機の音は耳の遠い高齢者にもよく聞こえる』という話を聞き、着想を得たところから始まります」

こう話すのは、代表取締役社長の山地浩さん。創業メンバーは蓄音機のラッパのカーブの部分に注目し、「湾曲部分が振動することで聞こえやすさが生じている」という仮説を立てた。そしてこの仮説に基づき、曲面振動板を搭載した試作品の開発をスタート。約2年の試行錯誤と検証を経て、2015年秋に初代の「ミライスピーカー®」が完成した。

「試作機の段階で、日常で音の聞こえづらさを感じている人に集まっていただき、聴覚チェック用のCDを通常のスピーカーと「ミライスピーカー®」で同じ音量で再生して比較していただきました。すると、8割以上の人から『音の聞こえが改善した」との回答があり、中には『補聴器がなくても聞こえる』といったご意見もいただきました」(山地さん)

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曲面サウンドの理論的基礎に関して専門家に調査を依頼したところ、早稲田大学表現工学科の及川靖広教授の研究室で、空中音波の伝わり方を可視化することに成功した
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東京都立大学の大久保寛准教授の協力で曲面振動板の振動シミュレーション解析を行い、広範囲に音波が届いていることが確認された