TSMC熊本工場で経済安全保障は担保されるのか
日本政府や経産省はTSMCを熊本に招致するにあたって、「経済安全保障の点から半導体のサプライチェーンの確保が重要である」ということを強調している。
しかし、筆者は、TSMCが日本に新工場を建設することが、どうして経済安全保障が担保されるのか、なぜサプライチェーンを強靭化することになるのかが分からない。
TSMC熊本工場は、ソニーのCMOSイメージセンサの工場に隣接して建設される。また、ソニーは、TSMC熊本工場に約20%資本参加している。要するに、ソニーのCMOSイメージセンサとTSMC熊本工場は深くつながっている。
それでは、ソニーのCMOSイメージセンサを例に取り上げて、TSMC熊本工場が稼働した場合、経済安全保障が担保されるのか、サプライチェーンが強化されるのかを考察してみよう。
スマートフォンのカメラモジュールなどに使われるソニーのCMOSイメージセンサは、ピクセルと呼ばれる画素、メモリのDRAM、ロジック半導体、という三つの半導体チップを張り合わせることにより形成されている。ピクセルはソニーが生産し、DRAMはマイクロンなどのメモリメーカーから購入し、ロジック半導体はTSMCに生産委託している。
まず、これまでは、次のようにCMOSイメージセンサが生産されてきた(図6─6上段)。
ソニーがロジック半導体の設計を行い、その設計データを基に、TSMCが所有するマスクショップで、マスクを設計し製造する。さらにTSMCはこのマスクを基にプロセス開発を行い、例えば500工程ほどのプロセスフローを確立する。そして、そのプロセスフローを基に、TSMCがCOMOSイメージセンサ用のロジック半導体を量産する。
このように生産されたロジック半導体はソニーに送られて、マイクロン等のメモリメーカーから購入したDRAM、およびソニーが生産したピクセルと張り合わせる。それが例えば台湾のASEなどのアセンブリメーカー(OSAT)に送られ、パッケージに封入されて各種検査が行われた後、中国にあるホンハイ(本社は台湾)の工場でアイフォンなどのスマートフォンに組み込まれる。
では、TSMCが日本に新工場を建設した場合、CMOSイメージセンサの生産の流れはどのようになるか、図6─6の下段で説明する。