旧車ビジネスに乗り出す正規ディーラー

その一方で、昨今の旧車人気によって状況が変わってきている。トヨタやニッサンなどの自動車メーカーの正規ディーラーが、旧車の修理やレストア(修復)事業に乗り出しているのだ。ネッツトヨタ富山の渡邊謙太郎さんに話を聞いた。

「うちはGRガレージ富山新庄の店舗も運営しており、新車のGRヤリスやGR86を販売しているのですが、GRガレージにレストアピットを併設していて、旧車の部分修理やフルレストアもしています。そういうことはこれまでディーラーではしていませんでした。

でもうちでは20年近く、お客さんの古いクルマの面倒を見ていましたので、一回本格的にやってみようと思ったんです。あと定年退職を控えるエンジニアがいて、古いクルマの技術や経験を生かさないのはもったいないというのもありました。それで旧車のレストアの事業を立ち上げ、経験豊富なエンジニアに大事に作業してもらっています」

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ネッツトヨタ富山運営のGRガレージ富山新庄のガレージで約1年かけてレストアされた1972年のセリカ1600GTV。車両は客の持ち込みで、フルレストア費用は約600万円

ネッツトヨタ富山で旧車のビジネスを事業化したのは4年ほど前。トヨタ車だけなく、他社の旧車や輸入車の修理、メンテナンス作業を行いながら、旧車のイベントに出店して「ディーラーでも旧車の面倒を見ます」とのPRを地道に続けてきた。その甲斐もあって、全国から問い合わせがあると渡邊さんは語る。

「トヨタでは、私たちの他に神奈川や関西にも旧車のメンテナンスをしているディーラーがあって、これからも徐々に増えてくるでしょう。トヨタは最近、ランドクルーザーやAE86(1986年発売のカローラレビン/スプリンタートレノ)などの往年の名車の修理部品を再販し始めていますし、旧車ビジネスはますます盛んになってくると思います。

またトヨタはカーボンニュートラルを実現するために水素や電気自動車などの開発を進めていますが、古いクルマにもすごく興味があるようです。よくトヨタ関係の人を旧車のイベント会場でも見かけます。それに何と言っても豊田章男社長はガソリン臭いクルマが好きだと言っていますからね(笑)」

ヨーロッパでは多くの自動車メーカーが自社の古いクルマのパーツ修理やレストア事業を行っているが、日本のメーカーも遅まきながら旧車ビジネスに乗り出そうとしている。国内での新車販売台数は3年連続で前年割れが続く中、旧車での商売は自動車メーカーやディーラーにとって大きなチャンスだ。

今後、修理部品の再販を進めてラインナップを拡充し、全国のディーラーを巻き込んで旧車をメンテナンス・修理できる体制を整えられれば、旧車のマーケットはさらに活性化するだろう。もしかしたら旧車やネオクラシックカーの価格高騰は始まったばかりなのかもしれない。

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取材・文/川原田 剛
撮影/五十嵐和博
取材協力/旧車イベント「スタルジック2デイズ 2022」