夢枕獏、 谷口ジローを語る。_13
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 ところで僕はフランスでも多少の知名度があるんですよ。向こうに行くと、「お前小説書いてるのか? どんなの書いてるんだよ?」って話になるんで「谷口ジロー知ってるか?」と聞くと「おー、勿論知ってるよ」と。「だったら『神々の山嶺』知ってるか?」と聞くと「読んだよ」と。「その原作が俺だ」と言うと「おおお〜」っと言ってもらえるわけなんです(笑)。

 フランスで僕に多少の知名度があることとか、それからこういう風に僕がずっと気になってたことを回収して助けてくれたのが他ならぬ谷口さんなんですね。
 ここでも改めて感謝を申し上げたいと思います。

 滅多に原作に手を入れない方だと思うんですけれども、こういう素晴らしい改変をしてくださり、コミカライズが決まった瞬間に「ラストを変えていいですか?」とおっしゃったのは、すでに谷口さんがこれを読んでいて、心の底から『神々の山嶺』を渾身の力を注いだ漫画にしたいと思ってくださっていたからだろうと想像しますね。その答えは、私もみなさんもよくご存じである、あの素晴らしき結果であったと感じています。それでね、谷口さんの一番すごいのはこんなに原作に忠実にやってるのに完全に、〝谷口ジローの漫画〞になってるところなんですよ。『神々の山嶺』もそう。これは谷口さんの才能であり、ひと味違うところですね。

構成・文・撮影/米澤和幸 
©️谷口ジロー ©️狩撫麻礼 ©️PAPIER  協力/北九州市漫画ミュージアム

初出/小説すばる8月号