いざ麦茶販売にチャレンジ!

ヒロトが話し終わると、店主は、ばんっ、ばんっ、と、力強くひざを叩いた。「なんか面白そうじゃないの。別に敷地の端っこを貸すだけでしょ? いいよ、やってみなよ」

その返事をきいて、ヒロトの表情がぱあっと明るくなった。「本当ですかっ。やった、ありがとうございます」これでついにビジネスが始められる。そう思うとヒロトの声にも一層力が入った。

「つめたーい麦茶はいかがですかー?」

ヒロトは、通りがかりの人たちに、そう呼びかけた。しばらくすると、優しそうなおばあさんが話しかけてきた。みると、すこし足を引きずっているようだ。

「あら、麦茶ねえ。これは、いくらなの?」80歳くらいだろうか。銀色に近い白髪で、目じりが下がっている。

「えっと、あれっ? 決めてないやっ」
「あら? それじゃあ、買えないわね」
ヒロトは、ちらっと、自動販売機を見た。麦茶は140円だ。それよりは安いほうがいいだろう。
「んー、じゃあっ、100円でどうでしょう?」
「いいわね。じゃあ、ひとつちょうだい」
そのおばあさんはヒロトに100円をわたすと、麦茶を1本取って、その場で飲み始めた。

「あら、美味しいわ」
「ありがとうございますっ」

そういって、ヒロトは100円玉をにぎりしめた。自分の力で手に入れた100円。お小遣いでもらうよりもなんだか重く感じる100円。

不思議な本との出会いが、中学1年生に飲み物ビジネスを始めさせるが、友達から「サギじゃん、ズルじゃん、悪いことじゃん」と言われ…_2

それからも、麦茶の売れ行きは良かった。ときどき、「コーラとかないの?」と、きかれたりしたし、こっちから話しかけても逃げられてしまったり、近くの自動販売機のほうを選ぶ人もけっこういた。お釣りのことを考えていなかったために、お札しか持っていない人に売りそびれたこともあった。

それでも一日を通して麦茶はぼちぼち売れ続けたし、途中で、部活帰りの高校生5人組がひとり1本ずつ一気に買ってくれるというラッキーもあった。