もう働かなくても暮らせるくらい稼いだのに、全部家族が使ってしまった

だが実際は、マネージャーと契約がある間は、売り上げノルマとペナルティーのプレッシャーに耐え、客からのセクハラにも耐え、ストーカーにあうなど時にはトラウマになるほど嫌な経験をすることだってある。だが、遠くにいる家族を心配させたくないから、日本での辛い話は一切せず、「元気だよ。給料入ったらお金送るからね」と元気にふるまう。弱音は吐かない。

フィリピンの家族は、日本に出ている娘が大成功していると思い、どれだけでも金を送ってもらえると勘違いしだす。悪い面に思いが及ばず、良い面しか見えなくなってきてしまうのだ。そして、いつしか、その生活が当たり前になり、送金も当たり前になってしまう。

家族の中で、フィリピンで送金を受け取る側と、海外からお金を送る側という役割が出来上がる。こうして一度出来上がった役割は、なかなか変えることができない。

「働かなくても暮らせるくらいで稼いだのに、全部家族が使ってしまった」祖国への送金を誇りに思っていたフィリピンパブ嬢が直面した家族崩壊_3
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自分の生活よりも家族を優先にして懸命に貯めた金で、家や土地を買おうと計画を立てるフィリピン女性も多い。だが、信じていた家族が金を使い込んでしまったという話もよく聞く。

まだ日本にバブル景気の残り香が漂っていた1990年代前半頃までは、チップやドリンクバックなどで、月100万円近く稼いでいたフィリピンパブ嬢もたくさんいた。そんな毎月の稼ぎのほとんどをフィリピンに送金し、自分は何年も帰らず、

「お金もう貯まったな。フィリピンで家建ててもう働かなくても暮らせるな、って思ったら、1円も残ってない。聞いたら全部使っちゃったって」

そんなウソのような話を、80年代、90年代に来日したフィリピン女性たちからは頻繁に聞く。そして、フィリピンの家族との関係も変わっていく。

「家族はお金のことしか考えなくなっちゃったね」

皮肉なことに家族のために頑張って働き、送金したことにより、家族の関係が悪くなることもあるのだ。大金が入るようになり、家族が崩壊していく。これも送金に頼って生活している家族が多いフィリピンの課題なのは間違いない。

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#3『遺族が葬儀代を稼ぐために通夜で賭場を開くフィリピン。「金を払わないと棺が墓から出される」独特な死後のお金事情』はこちらから

『フィリピンパブ嬢の経済学』 (新潮新書)
中島 弘象
2023年6月19日
902円
240ページ
ISBN:978-4106110023
フィリピンパブ嬢との出会いと交際は、すったもんだの末に見事ゴールイン。これで平穏な日々が訪れるかと思いきや、妻が妊娠。新たな生命の誕生とともに二人の人生は新たな局面に突入する。初めての育児、言葉の壁、親族縁者の無心と綱渡りの家計……それでも「大丈夫、何とかなるよ」。異文化の中で奮闘する妻と支える夫の運命は? 話題作『フィリピンパブ嬢の社会学』に続く、抱腹絶倒のドキュメント第二弾!!
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