教育虐待の最たる悲劇
日本社会では、学歴の威光は年々弱まっている。企業は入社試験の際に学歴を重視しておらず、官僚など一部の世界を除けば学閥も崩壊状態だ。
だが、世の中の流れはそれに逆行している。メディアは「東大生」や「東大へ子供を入れたママ」を必要以上にもてはやし、一流大学の学生はSNSのプロフ欄に大学やゼミの名を誇らしげに書き込む。
むろん、本人が勉強が好きでやっているならいいだろう。だが、親が塾やSNSに煽られて受験にのめり込むあまり、子供に勉強を強要し、身心を傷つけることがある。
「今、努力できない子は一生できないわよ。ここで落ちこぼれたら、ホームレスになるだけなのよ!」
「こんなことさえできないのは、うちの子じゃない。塾代にいくらかけたと思ってるんだ。出て行け!」
親は冷静さを失って子供の人格を否定する言葉を投げ掛け、時には物をぶつけたり、手を上げたりすることさえある。
私は拙著『教育虐待――子供を壊す「教育熱心」な親たち』(ハヤカワ新書)で、エスカレートした教育が虐待へつながる社会背景を描いた。教育虐待をする親には、いくつかの原因があるが、その中には親の発達特性が絡んでいるものも少なくない。
2016年に愛知県で起きた教育虐待の最たる悲劇について書きたい。
父親の佐竹憲吾は、父親から教育虐待を受けて育った。父親が薬局を経営しており、憲吾を薬剤師にさせ、店を継がせようとしたのだ。
憲吾は父親から激しい暴力を受けながら中学受験をし、地元の名門・東海中学に入学した。だが彼は発達障害の一つである、ASD(自閉症スペクトラム症)だったことから、周囲とうまく関係性を築けず、勉強にも身が入らなくなっていった。