「発達障害は薬を飲めば治るものではない」

服用をはじめて間もなく、少年は落ち着つくようになり、勉強にも集中できるようになった。だが、薬の副作用として非常に攻撃的な性格になった。誰かが悪口を言っているのではないかという被害妄想に囚われ、些細なことで他人に怒鳴り散らしたり、つかみかかったりするようになったのだ。

給食中にクラスメイトをフォークで刺した加害者―薬をうまくコントロールできない発達障害の子供たち_4

少年が事件を起こしたのは、中学2年の時だった。給食中にクラスメイトとくだらないことで口論になり、激昂した彼は相手をフォークで刺したのだ。その後、彼は薬の副作用で攻撃的になっているとされ、服薬を中断するように指示されたが、教育熱心な両親は別の医療機関へ行ってまた薬を出してもらい、少年はさらに複数回にわたって暴力事件を起こすことになった。

このように見ていくと、薬を適切に使えるかどうかが、その子の生きやすさ、生きづらさに直結することがわかるだろう。先の医師は次のように述べる。

「発達障害は風邪とは違って薬を飲めば治るものではありません。だから、本来は薬を飲まないでもある程度うまく生きていけるようにしなければならないのですが、それをせずにとにかく薬を飲ませろというふうになると、コントロールできる環境や力のない子供たちが不利益を被る可能性があります。薬はコントロールできて初めて意味のあるものになるのだということは認識しておく必要があるでしょう」

社会の寛容さが失われ、医学が発展すればするほど、偏った特性を薬で抑制しようという空気は強まるかもしれない。ただ、薬を適切にコントロールできる人とそうでない人がいることは、社会が把握しておかなければならない。

取材・文/石井光太

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シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症など様々な社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報をお守りすることはお約束しますので、取材を引き受けていいという場合は下記までご連絡下さい。

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