「もっと早くに知りたかった」…背景にある親心

『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』の冒頭には、監修の八木陽子氏によるこんな一文がある。

「稼ぎ方や使い方に、社会を良くするための『思い』や、人を幸せにする『願い』が込められていれば、お金の話をすることは、カッコイイことになるでしょう」

子供向け「マネー本」が児童書の棚にズラリと並んでいる理由。「金融教育必修化と成人年齢引き下げだけではない。親世代にも読まれています」_3
『10歳から知っておきたいお金の心得~大切なのは、稼ぎ方・使い方・考え方』(えほんの杜刊)

本書を刊行している、えほんの杜・立川宏氏に話を聞いた。

「2018年に『10歳』シリーズ(第一弾『10歳の君に贈る、心を強くする26の言葉 哲学者から学ぶ生きるヒント』)を創刊したのは、学校では教えてくれない生き方について提示できるような児童書を作りたいと考えたのが発端でした。

なかでも『お金』は生きていく上で欠かせないものであるはずなのに、それに反して『教育』があまりなされていないジャンル。それはよくないことなのでは……というところから企画が生まれた経緯があります。

『お金』や『投資』の話というと『どうやって儲けるか』につながるイメージがあるかもしれませんが、たとえば投資をすることは『どんな会社なのか、そこに投資をすることで社会にどんな影響があるのか』を考える機会になります。自分のためだけでなく、世の中をよくするためにお金について学ぶことが大事なのだと考えています」(立川氏)

発売当初から売れ行きは上々とのことだが、「弊社が子供たちに伝えたいと思っていたことと、時代がたまたまマッチしたから」と立川氏は言う。

「10歳」を掲げた理由については「小学3〜4年生くらいの、柔軟な心を持っている時期に読んでほしかった。なので、あえてシンプルでかわいい絵柄にして、『読んでいて疲れない』本を意識しました」とのことだ。

金融にまつわる多数の著書を持つ経済アナリストの森永康平氏は、子供向け書籍『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』(大和書房)を2022年に上梓。

こちらはやや広い年齢層向けではあるが、表紙に学ランの少年が描かれた『森永先生、僕らが強く賢く生きるためのお金の知識を教えてください!』(アルク)も2023年に刊行している。同氏は、子供向けの「お金の本」が今求められているのには複数の理由があると語る。

子供向け「マネー本」が児童書の棚にズラリと並んでいる理由。「金融教育必修化と成人年齢引き下げだけではない。親世代にも読まれています」_4
『小学生から知っておきたい 使い方 貯め方 増やし方 守り方 マンガでわかる お金の本』(大和書房刊)

「児童書を買うのは子供ではなく親です。お金の本を進んで欲しがる子供はそう多くはないと思います。ではなぜ親が子供に『お金の本』を読ませたいかというと、近年『老後2000万円問題』※を発端にして、NISAやiDeCoなどを含めた投資の勉強を始める人が増えました。

それに伴って『もっと早くこの知識を学びたかった』、『子供にはこの苦労をさせたくない』と感じている親が多いのではないでしょうか。僕の本に対しても『自分が子供の頃に読みたかった』という感想をいただくことが多いです。そんな親心が第一にあるのだと思います」(森永氏)

※「老後2000万円問題」
2019年に公表された「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」内で夫65歳以上・妻60歳の夫婦(無職とする)が「老後」を過ごすにあたって約2000万円が不足するという試算が報告された。「老後2000万円」というインパクトのある数字が呼び水となり、大きな議論になった。あくまでモデルケースの試算であるため「絶対に2000万円必要」というわけではないのだが、この報道をきっかけに投資や投資の勉強を始めた人も多い。