負の感情で終わらせない、作家としての責任

ゲイでナルシストの老作家と、若く美しいウリセンボーイ。映画『老ナルキソス』で当事者としての性的マイノリティを描いた監督の責任と覚悟_5
レオを伴い、愛車に乗って旅に出る山崎(右)。映画はあくまでも、老齢の山崎のもがきをコミカルかつシニカルなトーンで描いている
© 2022 老ナルキソス製作委員会
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さて、『老ナルキソス』を見終えて多くの人の心に残るであろう特徴は、主人公である山崎、そしてレオも含めて、ネガティヴな感情で終わっていない、という点がある。

ネタバレになるので詳しくは語れないが、生と性への飽くなき欲望を取り戻すことによって、仕事の上でも活力を取り戻している。

「たとえば、ヴィスコンティの『ベニスに死す』(1971)は好きな映画ですけど、やはり50年前の価値観で描かれています。年老いたゲイは独り静かに死んでいかなくちゃならない。でも、今は違うだろう、と思いました。今、それを描いてはいけないし、じゃあその後を、何を描いていくべきなのかを考えました」

こうしたポジティヴな感情を主人公に持たせ、観客にも肯定的な想いを共感させたいという意識を、東海林監督はクリエイターとしてのある種の責任ととらえているようだ。性的マイノリティとしてありのままの自分を肯定的に捉えるべきだという感覚は、東海林監督の作品に共通している。

世の中の意識を変えていくことは一朝一夕ではできないが、それでも、表現者として描き続けることによって、少しずつでも観客側の意識を、性的マイノリティを色眼鏡で見るようなバイアスから解き放つことに役立っていくはずだ、と。

その責任があるからこそ、東海林監督は今後も「クィアな映画や性的マイノリティを描いた作品」を作り続けたいと明言しているのだ。今後も注目していきたい。

文/谷川建司 

東海林毅
石川県出身。映画監督、映像作家、CGデザイナー、コンポジター。武蔵野美術大学在学中より活動を開始し1995年東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて審査員特別賞を受賞。バイセクシュアル当事者でもあり、商業作品を監督する傍ら主に自主作品の中でLGBTQ+と社会との関わりを探ってきた。同名の短編『老ナルキソス』(2017)が国内外の映画祭で10 冠を獲得したほか、短編『片袖の魚』(2021)では日本で初めてトランスジェンダー当事者俳優の一般公募オーディションを行い話題となった。

老ナルキソス』(2022) 上映時間:1時間50分/日本
ゲイでナルシシストの老絵本作家・山崎(田村泰二郎)は、自らの衰えゆく容姿に耐えられず、作家としてもスランプに陥っている。ある日ウリセンボーイのレオ(水石亜飛夢)と出会い、その若さと美しさに打ちのめされ、自分以外の存在に生涯で初めて恋心を抱く。レオもまた、山崎に見知らぬ父親の面影を重ね合わせていた。すれ違いを抱えたまま、ふたりの旅が始まる……。

5月20日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
配給:オンリー・ハーツ
© 2022 老ナルキソス製作委員会
公式サイト:https://oldnarcissus.com