横綱空位以上に深刻な大相撲の問題点

1909年に優勝制度が設けられてから横綱空位時代は2度しかない。最初が1931年5月場所から1932年10月場所までの6場所。2度目が1992年夏場所(番付上は名古屋)から1993年初場所までの5場所(番付上は4場所)。

横綱は、いうまでもなく大相撲の看板であり相撲協会の顔。大黒柱が空位となれば、土俵は空虚な場所となってしまう。3度目の不名誉な時代を防ぐためにも大関陣の奮起が急務となる。

横綱昇進の条件は、「大関で2場所連続優勝あるいはそれに準ずる成績」と掲げられている。高いハードルを越えるために必要なものは何か。貴景勝の高校時代の恩師で数多くの関取を輩出している埼玉栄高校相撲部の山田道紀監督は、まず貴景勝について「大関に上がってからケガをして、治ってまたケガをしての繰り返し。まずは、ケガを治しきって本当に稽古を積める体をつくるのが先決です」という。さらに照ノ富士に続く横綱が生まれない状況をこう解説する。

「今の力士は、いつ稽古をしているのかなと思う。場所中はほとんど稽古をしない力士が多いですよね。場所が終わると、1週間は休んで、そこから自主トレーニングを始めて、初日の2週間前から本格的に稽古をしているはずです。けど、本当にそれだけでいいのかなと思います。他のスポーツを見てください。世界を股にかけているトップ選手たちは、朝から晩まで練習していますよ。それに比べると、どうなのかと思ってしまうんです」

続けて角界の稽古不足は「誰が優勝するかわからない」群雄割拠の時代を生んでいるという。

「特に相撲は感覚のスポーツ。肌と肌の感覚を脳に浸透させていくことが大相撲で実力をつける秘訣で、それには稽古しかないんです。そこが足りないから今は、誰が優勝するかわからない。私はアマチュアの監督ですから偉そうなことはいえませんが、見ていると今は横綱から大関、三役、幕内まで番付ほど実力差はないのではないでしょうか。その場所によってバイオリズムがいい力士が優勝している。だからこそ、稽古を誰よりも積んで肌と肌の感覚、肌感を養えば頭ひとつ抜けだせる時代だと思います」

山田監督は、現役力士では貴景勝を筆頭に琴ノ若、北勝富士、琴勝峰、妙義龍らを高校時代に育ててきた。魅力ある関取、そして、横綱、大関を生みだすためにも相撲協会が主体となって相撲の普及活動に乗りだすことが必要だと力説する。

「子供たちの相撲人口は減っています。これは非常に危機的な状況です。そこでたとえば、協会が幕下で品行方正な人物を普及委員として協会で雇用し、全国へ派遣するなどの普及活動をするべきだと思っています。子供たちへの相撲教室や大会を開いたり、1人でも多くの子供たちに相撲のすばらしさ、魅力を伝える。そういう地道な積み重ね以外に将来の関取を生みだす方法はないと思います」

「稽古不足」と「相撲人口の減少」。
忍びよる「横綱空位」の危機は、抜本的な相撲普及策を考えなければいけないという大相撲の現実も抱えているのだ。

取材・文/中井浩一