たまたま見つかった食欲の抑制効果

このように現在の日本では、副作用があるうえに効果も乏しい古い薬しか承認されていない。だが、海外では肥満治療薬として別の薬が注目されている。GLP-1受容体作動薬がそれだ。

この薬はもともと、糖尿病の治療薬として開発された。GLP-1とは、食後、腸の内分泌細胞から放出されるインクレチンというホルモンのことだ。インクレチンは、インスリン分泌を促進すると同時に、血糖値を上げるグルカゴンというホルモンの分泌を抑制する。GLP-1受容体に結合し、その作用を強化する薬物を開発すれば、糖尿病の治療薬に利用できると考えられた。

2005年4月、英アストラゼネカが開発した「エキセナチド」は糖尿病の治療薬として世界で初めて米国で承認された。我が国でも、2010年10月から販売されており、1日2回の皮下注射として投与される。2023年4月現在、世界では7種類のGLP-1受容体作動薬が承認され、経口剤(飲み薬)や週に一回で済む注射剤も開発されている。

そんなGLP-1受容体作動薬だが、臨床応用が進むと興味深いことが分かってきた。中枢神経系(主に脳幹と視床下部)に存在するGLP-1受容体に作用し、食欲を抑制するのだ。2021年3月、英レスター大学の医師たちが『ランセット』に発表した研究によると、デンマークのノボノルディスク(ノボ)が開発した「セマグルチド」注射剤が投与された患者では、平均して体重が9.6%減少していたという。

ノボは、この食欲抑制効果に注目し、肥満症の治療薬として臨床開発を進めた。肥満症患者1961人を対象とし、セマグルチド注射剤の有用性を検証した「第3相臨床試験」を実施したところ、治療開始後68週までの評価で、セマグルチド注射剤群は平均して14.9%体重が減少し、2.4%のプラセボ群(偽薬を与えたグループ)より12.5%多かった。この結果は、2021年3月、米『ニューイングランド医学誌』に掲載され、同年6月にはFDAが肥満症治療薬としても承認している。

飲むだけで体重が1割減る!?  世界で急成長する「肥満症治療薬市場」から日本が取り残される理由_2
米食品医薬品局

現在、米国以外にはカナダ、EU、豪州などでも肥満症治療薬として承認されており、日本でもノボの日本法人が承認申請中だ。2023年1月27日、厚労省の審議会が承認を了承しており、早晩、我が国でも医療用医薬品として販売が始まるだろう。ただしこれは皮下注製剤であり、週1回、自分で注射を打つことが必要になる。