地味でありながらも日本らしさの象徴
では、なぜ、技術力が重要なのか。それこそが、長年にわたって日本サッカーが武器にすべき力だとされているからだ。
前述のとおり、アフリカにルーツを持つ選手に対しては、ジャンプ力やスプリント力などの身体能力で日本人選手は遅れをとっている。同様に、日本人よりもはるかに平均身長や平均体重で勝るヨーロッパの選手には、身体をぶつけたときのフィジカル能力ではかなわない。
だが、技術力は適切なトレーニングを積むことで誰でも磨くことができる。
日本では伝統的に技術力を磨くことをよしとする文化がある。例えば、池井戸潤の小説『下町ロケット』、現在放送中のNHK連続テレビ小説『舞い上がれ』も技術力がテーマのひとつになっている。
また、スポーツの世界でも、技術力が大きなウェイトを占めると言われる野球は先日のWBCもそうだが、すでに何度も世界一の座に輝いてきた。そういった背景からも、技術力を武器に世界へ出て行くというのは最適な戦略と言えるはずだ。
カタールW杯ではドイツとスペインという優勝経験国を倒したことで世界中を興奮させた日本代表。ただし、多くの選手たちが指摘しているように、この大会では守備に重きを置いた戦いで結果を残した。2010年の南アフリカW杯でも証明されたように、日本代表が見せる守備の質は世界でもそれなりのレベルにある。
日本サッカーがここから先のステージへ進むためには、守備以外のレベルを上げていく必要がある。具体的には、一つひとつのパフォーマンスのアベレージと、技術力を活かした攻撃のレベルを向上すべきだ。それらを改善しようとするとき、選手たちが身につけるギアの質の向上は大きな力になる。
だからこそ、日本代表でも着用する選手が増えている五本指ソックスは今後の日本サッカーの地位向上の鍵を握っているのだ。地味であるが、日本らしさの象徴とも言える五本指ソックスの進化の行方から、目を離してはいけない。
取材・文/ミムラユウスケ