一方、マレーシアで顧客対応の仕事をしていたとき、怒鳴ったり嫌味を言ったりするお客さんに出会ったことは記憶にありません。この違いは何かというと、日常で家族とのコミュニケーションに満足している人が多いことと、人種や宗教によって正しさが異なるため「ちゃんとしていること」をそこまで求めないからではないかと思います。

むしろ怒っている顧客は後回しにされたり、避けられたり、無視されたりと、いいことはないのです。中には「あの顧客はいつも怒鳴るので、この業界では誰も仕事を受けたがらない」と言われたこともあります。「これでけは譲れない」が多い人ほど、この罠にハマるのだと思います。

もうひとつが上下関係の影響です。

中学時代に、先輩に挨拶しなかったり、うっかり目が合ったりすると、「生意気だ」「ガンをつけた」とか言われて怒られたり意地悪される。けれど、この先輩たちも、自分より年上の先輩にはやたら腰が低い。こういった上下関係が大人になってもそのまま社会に持ち込まれてしまい、怒りにつながるのかもしれません。

もちろん、イジメはどの社会にもあるのですが、日本社会の特徴は、大人社会も子ども社会と同じように機能していることだと思います。よく考えたら、学校から社会が新卒一括採用のため一直線でつながっているから当然なのです。同じことをしても、自分が高い地位にいれば誰からも、「叱られない」のです。そのためか「怒りを正当化する人」もよく見かけます。

「怒りを正当化する人」は、「叱られて俺も一人前になった」とか、「躾のつもりだった」とか言います。一九八〇年代に死亡事件を起こし、社会問題化した戸塚ヨットスクールのようなスパルタ式の「しごき」をわざわざお金を払って子どもに受けさせる親もいます。

叱られた方も、「育ててもらった」「怒られたから今の自分がある」と自分を正当化します。私も少しその気かあるように思います。 

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『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』
野本 響子
「家庭に不機嫌な人がいるのは当たり前」「怒りを正当化する人が多い」マレーシア在住の文筆家が教える“日本のおかしな点”_5
‎ 2023/2/6
¥1,540
184ページ
ISBN:978-4163916583
この本は、日本がなんだか辛いな、苦しいなと思っている方のための本です。
野本さんはマレーシアに家族で移住して10年。いまは海外教育や海外移住について書いたコラムやラジオ、講演会で大人気です。

一見不便で給与水準も低いのに、楽しそうな人が多いマレーシアという東南アジアの国。この国で学んだ人生を楽しく暮らす方法を紹介します。

野本さんは子どもを産む前、「こうすべき」が多い人間でした。
ー子どもが引きこもりになったらどうしよう
ー不登校になったらどうしよう
ーいじめられたらどうしよう

と不安でいっぱいでした。「子育ては親の自己責任で」とか「子どもをちゃんと育てられないのなら産むな」と言う人もいて、「そんなの産んでみないとわからないよ。きっついな」と思っていたそうです。そんな中で「嫌なら転校すればいいだけ」というマレーシア人や「子育てはテキトーでいい」とする日本人たちの存在は光明に見えたそうです。マレーシアに住んでみて気づいたのは、世界は自分が思ってるよりさらに広くて多様だということ。日本はかなりユニークで変わった文化だということでした。マレーシアに来て数えきれないほど様ざまな失敗をし、

―ほとんどのことには正解がない
―他人に期待しないと怒らなくて済む
―他人はコントロールできない
―精神のコントロールは自分でする
―白黒つけるのをやめる
―80%くらいの完成度で世の中に出す
―スピードの方が大事
―他人を助けると自分に返ってくる

といったことを現地の人々から教えてもらい、ずいぶん生きやすくなったそうです。
日本人は圧倒的に「ちゃんとしなくては」で苦しんでる人が多すぎる。しかし世界を見ると、そこまで厳しく緻密さや正確さは求められていないのです。海外進出する企業や学校教育の現場において、感情をコントロールすることの大切さをユニークな視点で書いたエッセイ。 
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