『徒然草』 (吉田兼好/岩波文庫)

<越智月子 選>
“モノへの執着は捨て、思い出だけを胸に収めていこうと思える”

実は大掃除のベストシーズン? 汚部屋を脱した作家たちが選ぶ、GWに「片付けがしたくなる本」5冊_3
『枕草子』『方丈記』と並び、日本三大随筆の一つと言われる「徒然草」

2021年に刊行された小説『片をつける』(ポプラ社)。ひょんなことからマンションの隣人の老婆、八重の汚れた部屋を片付けることになった独身女性の阿紗。少しずつ整う暮らしの中で、年齢の離れた二人の心情や人生のステージが変化していくストーリーだ。片付けのノウハウと共に暮らしを整えるとはどういうことかが、優しい筆致で綴られている。著者の越智月子さんは、本作を書きながら断捨離をし、自らの部屋も徹底的に片づけたという。

「『片をつける』を書くからには、モノに溢れる自分の部屋も片をつけなければ、という思いにいたりまして。収納用具をそろえるとかえってモノが増え、掃除道具を買い込むと買い置きがたくさん出てしまう……と幾多の掃除の失敗あるあるを経まして(笑)、2年前のゴールデンウィークからすっきり片付いた状態をキープしております。

部屋の四隅に物を置かない、背の高い家具を置かない、食事と仕事のとき以外はテーブルの上にモノを置かないといった技術的なこともありますが、片付けの前にまず整えたいのがやっぱり心です」

そう語る越智さんの推薦するのが、鎌倉時代に書かれた随筆の名作『徒然草』(吉田兼好/岩波文庫ほか)である。

「心を整えるのに、意外にも参考になる一冊です。『賤(いや)しげなるもの居たるあたりに調度の多き』(第72段)、『身死して財(たから)残る事は、智者のせざるところなり』(第140段)などを読むと、質素な暮らしぶりの潔さが描かれていて自分の物欲がいい感じにスーッと消えていく。モノへの執着は捨て、思い出だけを胸に収めていこうと思えてきます」

『高峰秀子の捨てられない荷物』 (斎藤明美/ちくま文庫)

<越智月子 選>
“暮らしを整えることは、背負ってきた有形無形の荷物を見直していくこと”

実は大掃除のベストシーズン? 汚部屋を脱した作家たちが選ぶ、GWに「片付けがしたくなる本」5冊_4

兼好法師を敬愛していたという昭和の大女優、高峰秀子の養女である斎藤明美が書いた『高峰秀子の捨てられない荷物』(ちくま文庫ほか)も、片付けの心構えを学べる本だと越智さんは語る。

「なさぬ仲の母親との関係、親族とのしがらみ、やりたくなかった女優業、大邸宅やありあまる家財道具……、長い間背負ってきたたくさんの荷物を一つひとつ片付けていく潔さが描かれています。一見、断捨離とは関係なさそうだけど、暮らしを整えていくことは、これまで自分が背負ってきた有形無形の荷物を見直していくことだと思うんです。モノと一緒に心も整えるというのか。そういう意味でも断捨離前にぜひ読んでもらいたい本です」