あの頃、公園の端っこにある排水口に通い詰めた理由は
僕は小学4年生の夏休みのはじめに、東京へ引っ越すことになる。
引っ越し直前の1979年7月、僕は一人でこの公園に毎日通い詰めていた。
公園の端っこにある排水口の中を覗き込むために。
そこには、一匹の大きなカエルがいた。
茶色がかった体だったから、恐らくトノサマガエルだったのだと思う。
理由はわからないが、どこかからそこに流れ着き、脱出できなくなったようなのだ。
排水口の中なので水はあるし、エサの虫も捕まえられていたようで、衰弱する様子はなかったが、カエルはいつまでもそこにいた。
かわいそうだと思ったが、小学生である自分にはなす術もなく、ただ元気でいることを確認するために、引越し当日まで繰り返し見にきていたわけである。
引っ越した後もしばらくそのカエルのことが頭から離れなかったが、東京での新しい暮らしに慣れるにつれ、いつしか忘れてしまっていた。
そのカエルが棲んでいた排水口が、いま目の前にある。
中を見てみよう。
非現実的なのはわかっているが、なんだか今でもあのカエルがいるような気がする。
カエルの姿を見た瞬間、時空がグワアンと揺らぎ、半ズボンを穿いた小学4年生の僕が現れるのだ。
排水口をそっと覗く。
カエルは、いない……。
そりゃそうだ。
そして、干支がもう一周すると高齢期に入るおっさんの僕は黙ってそこを立ち去り、車中泊の旅を続けるのであった。
写真・文/佐藤誠二朗