「覚せい剤が転がっているヤクザの家しか知らなかったから…」

中学2年の時、その母親は覚せい剤のやりすぎで突然死した。

ひかりはこれ幸いとばかりに故郷を逃げ出し、インターネットで知り合った知人女性の実家に転がり込む。この家の両親は、ひかりが居候することを受け入れてくれた。娘が精神的な問題を抱えており、友だちであるひかりが一緒に住んで心が安定するならば、やむ得ないと考えたようだ。

ひかりは20歳と嘘をついていたが、知人の両親は信じるふりをしてくれていた。その家で数年間を過こしたことで、ひかりは暴力団との関係を断ち切ることができた。この家での体験を次のように語っていた。

「これまでヤクザの大人とヤクザの家しか知らなかった。そこは覚せい剤が転がっているだけの殺伐とした空間だったけど、この家に来たことで『家族』ってものを初めて知ったと思う。ドラマとか映画の中にしかないと思っていたけど、食卓を囲んで笑ってご飯を食べるようなことが現実にあるってことが逆にショックだった」

今、ひかりは性転換手術を受け、恋人と同棲している。

彼女の例は幸運な出会いによって人生が変わったケースだが、現実的には大人になっても暴力団とのしがらみから離れられない者も少なくない。自らの意思ではないという点において、それは悲劇でしかないだろう。

暴力団構成員の親に罪はあっても、その子供として生まれた人たちはそうではない。社会に暴力と犯罪の再生産を起こさないためにも、こうした子供たちへの対策を考えていく必要がある。

取材・文/石井光太