ドーベルマン放し飼いの家で育った暴力団2世

こうして彼女は中学生に上がってから覚せい剤を筆頭として、いろんな違法薬物に手を出すことになった。

【暴力団2世】「家に覚せい剤があるのが普通」「暴力の連鎖」「家出しても不幸」9割が生活困窮を余儀なくされているヤクザ・チルドレンたちの実態_3
写真はイメージ

晴子のように、思春期になって親の真似をして覚せい剤に手を出すヤクザ・チルドレンたちは少なくない。密売人の子供として育った時点で、彼らは他人には計り知れないトラウマを抱えている。だからこそ、思春期になって現実から目をそらすために、親に倣って覚せい剤をはじめてしまうのだ。

これを負の連鎖といわずして何といおう。

男性の場合は、また別の負の連鎖に陥ることがある。暴力の連鎖である。福岡県にT会という指定暴力団がある。ここの大幹部の息子として生まれ育った渡辺篤史(仮名、以下同)の例を紹介したい。

父親は、篤史が小学6年生の時まで長い懲役に行っていた。篤史は母親から「お父さんは病院で入院している」と説明され、何も知らないままスポーツに明け暮れる日々を送っていたそうだ。

そんなある日、突然父親が刑務所から出所してきた。盛大な放免祝いが行われた後、一家は新築の巨大な屋敷に住むことになった。広い庭にはドーベルマンが放し飼いにされており、すぐ目の前には組事務所が建てられた。家の中には部屋住みと呼ばれる身の回りの手伝いをする子分たちが24時間張り付いた。

構成員たちにとって、篤史は親分の大切な子息だった。彼らは一様に篤史の機嫌を取ろうとして近づいてきたし、中には本物の拳銃を撃たせてくれる者もいた。篤史をかわいがれば、親分が喜ぶと思っていたのだろう。

中学に上がると、篤史は大幹部の息子という自分の立場に気がついた。先輩の不良たちが親しげに近づいてきて、あれこれと世話を焼いてくれる。彼らもまた、大幹部である父親を恐れていたのだ。