姫路の地元民からのおすすめに従い、
向かった先はハリウッド映画のロケ地

7日目(2023/1/19)の昼下がり、僕は兵庫県・姫路市の書写山を歩いていた。

書写山・書寫山(しょしゃざん)とは、兵庫県姫路市にある山。山上には西国三十三所の圓教寺がある。西播丘陵県立自然公園に含まれており、兵庫県の鳥獣保護区(特別保護地区)に指定されているほか、ひょうごの森百選、ふるさと兵庫50山に選定されている。書写山の一部には原生林が残る。

とはWikipediaの完全丸写しで、僕はこの日の朝まで、書写山のことなどまったく知らなかった。
姫路は城だけ見学して先へ進もうと思っていたので、その日の朝は、溜まっていた洗濯物を処理するため市内のショッピングセンターの駐車場の一角にあるコインランドリーで洗濯をしていた。

洗濯を終え駐車券の処理方法で迷った僕は、コインランドリーのメンテナンスに来ていた女性に聞いてみた。
すると、精算方法を教えてくれたうえで「旅行中ですか?」と逆に尋ねられた。
車中泊の旅をしていることを話すと、その人は「姫路はねえ、皆さんお城だけ見て通過しちゃうんですよ。他にもいろいろと、良いところがあるのに」と言う。

そこで、姫路で見逃せない場所はどこかと尋ねると、書写山にはぜひ行くようにとすすめられたのだ。
山の上にはロープウェイで簡単に行けて、そこから山道を歩いてお寺の建物めぐりができること。
古いお寺はとてもいい雰囲気で、『ラストサムライ』や『関ヶ原』など、映画のロケでもよく使用されているということを教えてくれた。

それで僕は姫路城を見た後、教えられたとおり書写山へと向かったのだ。

ロープウェイにて、山上までは簡単に到達できた。
そこからの山道はけっこうきつかったが、運転ばかりで運動不足気味の僕にはちょうどいい機会となった。

不運続きの車中泊旅。鳴門の渦潮、直島、圓教寺……訪れた人気観光スポットが、ことごとくガラ空きだった理由_17
書写山ロープウェイ

山上に点在する圓教寺の伽藍群をすべて回った。

不運続きの車中泊旅。鳴門の渦潮、直島、圓教寺……訪れた人気観光スポットが、ことごとくガラ空きだった理由_18
舞台造りの圓教寺・摩尼殿

素晴らしい寺院の見学を終え、
帰りのロープウェイで聞かされた事実

映画『ラストサムライ』の劇中で、トム・クルーズが渡辺謙と初めて対峙したという設定のお堂は、山の一番奥にある食堂(じきどう)だった。

不運続きの車中泊旅。鳴門の渦潮、直島、圓教寺……訪れた人気観光スポットが、ことごとくガラ空きだった理由_19
圓教寺の本殿・大講堂(右)と、修行僧の寝食の建物・食堂(奥)
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森厳なる山の奥に鎮座まします古寺、圓教寺は康保3年(966年)の創建。
「西の比叡山」と呼ばれるほど寺格が高く、中世には比叡山、大山とともに天台宗の三大道場と称された巨刹だ。(またWikipediaからのカンニング)
でも僕は今日の今日まで、姫路にこれほどすごいお寺があるなんて、まったく知らなかったのだ。

日本は広いぜ。
まだまだ知らないところがたくさんある。
俺なんて、東の街の一隅に住む、井の中の蛙にすぎぬよのお。

などと考えながら乗っていた、帰りのロープウェイ。
客は僕1人だけだったので、スタッフの方と気軽に話すことができた。
それによると、昨日の1月18日は書写山が一年でもっともにぎわう、最大のお祭り日だったのだという。

圓教寺の祭礼日は、曜日に関係なく1月18日と昔から決まっていて、“鬼追い”という1000年以上前から続く伝統行事が盛大に執り行われる。
だから昨日は見物客で、ロープウェイも山道も超満員。
その反動で、今日はこんなに空いているんですよ、という話だった。

えええ……。

だったら、昨日来れば良かった
またやってしまった。
どうも今回の旅は、何かに呪われているようだ。

しかし、残念そうにしている僕にロープウェイのスタッフさんはこう言った。
「でも昨日だったら大混雑で、こんなにゆっくりはできなかったですよ」

なるほど……。

そうかそうか。
ものは考えようだ。

鳴門の渦潮も直島も書写山も、有名な観光地だというのに、びっくりするほど人が少なく、マイペースで悠々と見学することができた。
それはことごとく、バッドタイミングの日だったからなのだ。

そもそもこの車中泊の旅は、観光地巡りをすることが目的ではない。
半世紀以上も暮らしているのに、実は知らないことだらけかもしれない我が祖国・日本を再発見するため、地べたを這うように走り回ってみようというのが目的なのだ。

それなら、ハレとケでいう「ケ」の姿、普段着の土地土地をゆっくり見られた方がいいではないか。
むしろ、自分はついていると言っても過言ではないのではなかろうか。

と、思いこむことでザワつく気持ちをなんとか抑えたのであった。

写真・文/佐藤誠二朗