――受賞作『双蛇に嫁す』は、どんなきっかけで生まれた作品なのですか?

まず「ノベル大賞へ応募する」と決めたことが出発点です。そして、応募作品は「現代の少女小説」としてのファンタジーを書きたいなと。

ファンタジーは、完全な創作だからこそ設定の辻褄を合わせる難しさはありますが、それも含めて設定を自由に考えられる楽しさもあると思っています。

次に、自分が書いてみたい要素を色々上げていって、実際に何を取り入れるか考えました。その時点で「中華」「双子」という要素が決まっていきましたが、大好きな作品のひとつである『十二国記』の影響も大きかったかもしれません。

自分の中では「とにかく派手な設定にしよう」と思って、「双子に双子が嫁ぐ」という設定を決めたのですが、選考委員の似鳥鶏先生からは「近代以前の史実では『悪いこと』として取り扱われる双子が逆に尊ばれる設定が面白い」と評価をいただいて、嬉しかったです。

――「少女小説」というと、キラキラしたイメージも強いように思いますが、『双蛇に嫁す』は、かなり骨太な物語ですね。

私の中にある少女小説の少女のイメージは「愛される少女」ではなく「試される少女」なんです。近年は溺愛系の少女小説がメジャーですが、私はダイナミックな大河ストーリーが書きたくて。キャラクター造形については、主人公のシリンは自分の中にある「少女小説の主人公」をそのまま形にしたキャラクターでした。

一方で姉のナフィーサは、シリンと対照的なキャラになるよう意識しました。ただ、中華風ファンタジーということで、いざ書き始めると「自分が見たことのない場所を書く」ことの難しさを痛感しました。

誰も行ったことがない架空の中華世界をどう表現したら、読者にそのシーンを想像してもらえるのか……「中華風の少女小説」に憧れて書き始めたはいいものの、本当に難しかったです。それを完成させられたのは、とにかく「書き始めたからには書き上げなくては」の一心でした。

――ノベル大賞は、受賞作の文庫化が確約されています。受賞後、文庫化に向けての作業はいかがでしたか?

選考委員の先生方からもご指摘をいただいたのですが、応募作は前半と後半がうまく繋がっていなかったので、担当編集さんと相談をしながら、後半を中心に大幅に手を入れました。

体感的には6~7割はやりなおした感覚ですね。選評で指摘を受けたのは「本当にその通りだ!」と感じるところばかりだったので、まず「ちゃんと書けていなかったそれまでの自分」と向き合うところからのスタートでした。

公募時代は執筆といえば一人でひたすら書いて、誰かの意見をもらうということがなかったのですが、受賞してからは、担当編集さんと相談しながらの改稿作業になります。自分一人で考えていると見落としてしまうことを指摘してもらったり、自分では思いつかないアイデアをもらえることはありがたかったですし、改稿を通して本当の意味で作品をブラッシュアップできている実感がありました。

タイトルに関しては、原題の『双蛇に嫁す』がいい、と担当さんに言っていただけて、でも受賞を知った知人から「あやかし系の物語?」と言われたこともあり、担当さんと相談をして、もう少し物語の内容を想像できるようなサブタイトルを新たにつけました。

――改稿のためにご自身で取り組まれたことはありますか?

受賞後、改めて中国史について真剣に勉強しました。応募作は、正直知識不足なまま書いてしまったと思います。中華風のお話が好きで、そういう創作物はたくさん読んできたけれど、史実に基づく知識が圧倒的に不足していました。

架空の設定だからといって、想像だけで書いていては説得力が足りない。現実の歴史にも登場するような要素を作中に取り入れる時に、その要素にまつわる由来や背景を知らなければ、雰囲気だけそれっぽく装ったちぐはぐなつぎはぎのものになってしまう。

選評を読んで「これではいけない」と気づかされ、受賞後はとにかくたくさん本を読んで勉強しました。既存の小説も参考にしましたが、研究書や史書、資料類から得たものが大きいと感じています。そして、ちょっと勉強してみると、自分が全然ものを知らないことがわかってきてさらに恐ろしくなるという……。

おかげで改稿時は、史実を踏まえながら書くことができました。同時に「知らないと書けない」ことはものすごく多いのだと痛感しました。

――改稿作業を振り返ってみて、どんなことが印象に残っていますか?

改稿作業は2022年の10月から始めて、最終的に今年の1月までかかりました。辛かったけれど、楽しかったし面白かった。自分が創作したキャラについて、担当さんから自分も知らなかった人物像を考察してもらえたことに、大きな驚きと楽しさがありました。

それから、田村由美先生にカバーイラストを描いていただけたことが本当に嬉しくて……! 原稿を実際に読んでいただき、イラストにも小説内の描写を細かく反映していただいていて。

完成した表紙を初めて見た時は、描かれたシリンをじっと見ているうちに泣いてしまいました。ずっと文章で描写してきたシリンでしたが、田村先生のイラストを見て、初めて彼女に会えたような気がしました。

自分の中では未だに実感が湧かないぐらいなんですが、まもなく文庫が書店に並ぶことを思うと、すごく楽しみで、同時に緊張しています。そして、改稿を経て完成した文庫『双蛇に嫁す 濫国後宮華燭抄』を、お忙しいとは思いますが、カズレーザーさんにも読んでいただけたら、こんなに嬉しいことはありません。