高津監督の頭が上がらない2人のベテラン選手。「二軍ではそれほど活躍しなくても、一軍になると生きてくる」
セ・リーグ連覇、交流戦優勝、ゆとりローテーション、言葉の力――球界に革新を起こすヤクルトスワローズの名将・高津臣吾。自らのマネージメント手法を克明に語った『理想の職場マネージメント ~一軍監督の仕事~』(光文社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
一軍監督の仕事#1
高津監督の頭が上がらない2人のベテラン選手
選手たちの年齢構成を考えるのは現場を預かる監督として重要なことだ。
レギュラー全員が30歳を超えていたらどうだろう?
3年後、5年後を考えた時に、それは避けたい。反対に20代前半の選手が先発メンバーにずらりと並ぶようだと、経験不足が災いして厳しい試合が続くだろう。先発メンバーだけでなく、ベンチのメンバーを含めて、選手たちの年齢構成のバランスが良いチームが、やはり結果を残せると思う。
僕が一軍の監督になったのが2020年。3シーズンを戦い終えて実感しているのは、いまはチームバランスが非常にいいということだ。ベテランがいて、30歳前後の中堅がチームの核となり、20代前半の若手が元気をもたらしている。2023年の開幕戦では、濱田太貴(22歳)、村上宗隆(23歳)、内山壮真(20歳)、長岡秀樹(21歳)が先発に名を連ねた。
一方でベテランといえば、投手では1980年生まれの石川雅規、野手では1982年生まれの青木宣親の2人が中心となってくれている。この2人は若手のお手本そのものだ。

写真/共同通信社
匠の技術でチームに何勝をもたらすかという視点だけでなく、他の選手たちに対する影響力も含め、彼らの存在は計り知れないほど大きい。ともに技術の向上にいまだに貪欲で、練習も一生懸命にやる。その姿を見て、「それはどうやってるんですか?」と質問をしにいく若手もいる。石川、青木ともに技術を隠すようなことはまったくしないので、それだけでチーム力が上がる。
僕が2人のことを尊敬しているのは、質問されるばかりではなく、ライバルである後輩たちにも質問をぶつけていることだ。石川と青木の野球に対する謙虚な姿勢には頭が下がる。
石川と青木の影響力
石川は「200勝まであと何勝」ということが注目されているが、とにかく練習熱心で、球場に早くやってきて準備を怠らない。キャンプでも2月1日、初日からブルペンに入り、「ちょっとだけです」と言いながら、50球ほど投げ込むこともある。石川のそうした姿勢を見た後輩たちが「自分もやらねば」と思うのは自然な流れだろう。
僕は投手コーチとして石川のことを見ていた時期もあるので、彼が数や量を重視して開幕に備えていくタイプだということを理解している。ピッチングをして、ランニングをして、その後にまたピッチングをする時さえある。
真面目なだけでなく、柔軟性もある。僕が投手コーチの時だったか、「気持ち良く投げられるキャッチャーがいるんだったら、遠慮なく言ってもらっていいからね」と伝えた。石川ほどの格の投手ならば、捕手の希望は通る。ところが石川は「誰に受けてもらっても大丈夫ですよ。ありがとうございます」と言うのだ。そして彼は、どの捕手と組んでもうまくピッチングを組み立てる。
柔軟性は、好奇心にも表れている。若手に対して「それ、どうやってるの?」とどんどん質問を繰り出していく。いまのフレッシュな気持ちを維持していれば、間違いなく200勝到達は可能だろう。
青木は、ポジションを争うライバルであっても、惜しみなく技術を伝える。技術的なアドバイス、ヒント、聞かれればなんでも答えられる「辞書」のような存在だ。
彼らがリーダーとしての資質に恵まれているなと感じるのは、みんなの前で面白いことを言う勇気を持っていることだ。ユーモアがあるし、すべることさえ気にしない。ちょっとふざけたり、みんながクスッと笑ってしまうようなことを平然と言ったりする。先輩風を吹かせ、しかめ面をしているような人間ではない。彼らがスワローズの雰囲気、トーンをつくってくれていると思う。理想の職場の実現には、ベテランの存在が大きな意味を持っている。
石川と青木の特殊性
僕がみなさんに伝えたいのは、石川と青木はある意味、技術面で特殊な選手だということだ。
石川は、オープン戦で打たれる場合がある。しかし、僕はまったく心配していない。開幕に合わせているのを何年も一緒にやっていて知っているのと、石川の球は二軍の打者にタイミングが合ってしまうからだ。それは、球が遅く、ストライクが来るという極めてシンプルな理由による。逆説的だが、だからこそ、一軍では通用する。
球の出し入れ、緩急、石川の投球術は一軍でこそ生きるものなのだ。
彼の探求心は、「相手チームは、自分をどう研究しているのだろう?」というところにまで行き着いているようだ。そのうえで相手の裏をかこうとしているのだから、恐れ入る。いまの若手投手たちは、年齢を重ねるにつれ、「石川さんはすごいことをやっていたんだな」とようやく気づくことになるはずだ。
青木も、一軍でこそ結果を残す打者だ。僕が二軍監督だった時、青木がケガ明けの調整で二軍にやってきた(そこにいたのが入団1年目の村上だった)。青木は独特の調整法を採っているようで、ファームの試合ではそれほどヒットは出ない。ファンは不安だっただろう。ところが、一軍に上がった途端にバンバン打つ。
打撃のことは詳しくは分からないのだが、とにかく一軍の投手にはタイミングが合うようなのだ。青木は天才肌なのだと改めて感じた。
僕が石川と青木から学んだのは、オープン戦やファームでの結果だけで判断してはいけないということだ。ベテランには「味」がある。その味がどこで生きるかを判断するのも監督の仕事だ。
『理想の職場マネージメント~一軍監督の仕事』(光文社)
高津臣吾

2023年5月17日
990円
232ページ
978-4-334-04665-1
セ・リーグ連覇、交流戦優勝、ゆとりローテーション、言葉の力――球界
に革新を起こす名将が、自らのマネージメント手法を克明に語る。3連覇に向けて、
「さあ、行こうか!」
「チーム一丸となって」――誰もが念仏のように唱えるが、その方法について
言及されることは少ない。その方法をずっと考えてきて、僕がたどり着いたの
は次の言葉だ。
「相手のことを思いやり、相手のことを知る」
組織の目標達成のために、個人は仕事をする。僕は監督としてチームを指揮す
る。とはいえ、監督はすべてを自分の思い通りにしていいわけではない。自分
の考えを押し付けてばかりでは、周りの人たちの仕事に対するモチベーション
は上がらないだろう。 そこで重要に
なるのは、一緒に仕事をする人たちが、組織のためにどうしたいと思っている
のかを想像することだ。(本文より)
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