今年5月、コンビニのレジで年齢確認を求められた外国人とみられる男性が激怒し、店員を怒鳴りつける動画がSNS上で拡散した。
「店員には何の罪もない」「罵倒するのは間違っている」云々といった意見はさておき、きっかけとなったタッチパネルでの年齢確認の意義について改めて考えてみたい。
日常的にコンビニやスーパーで酒、タバコを買う人ならわかるだろう。店員の「年齢確認ボタンをお願いします」がちょっとわずらわしい。
無論、店員も仕事だから仕方なく聞いているのはわかる。同じセリフを一日に何回も繰り返さないといけないことにも同情する。年齢確認されるのは決まっているんだから聞かれる前に押してくれ、と愚痴のひとつもこぼしたくなるだろう。
そう思って、こちらは聞かれるより先にパネルに触れるようになった。それでも、たまにレジ前でボーッとしていて「年齢確認お願い……」と言われると、ああ無駄なことを言わせてしまったなとすまない気もする。
筆者、42歳。「若く見えますね」とお世辞を言われることはあったとしても、客観的に見て20歳未満には見えるはずがない。目の前の店員も心の奥底で思っているはずだ。この中年男に年齢確認の意味があるのか、と。

客の激昂動画が拡散…レジの“年齢確認ボタン”はトラブルの原因? 店側はコンプラ遵守でも「抑止効果は疑問」「杓子定規なマニュアルに批判も」【弁護士が解説】
人生であと何回、コンビニやスーパーの年齢確認ボタンを押すのだろう。見た目や実年齢にかかわらず、客に一律で押すことを求められるこのボタンにはいったいどれほどの意味があるのか? 法律的根拠は? ゆら総合法律事務所代表で弁護士の阿部由羅氏に話を聞いた。
年齢確認をしなくても罰則はないが…

コンビニのレジの年齢確認ボタン
年齢確認はいかなる法律に基づいているのか? 弁護士の阿部由羅氏が話す。
「酒とタバコの年齢確認は、それぞれ未成年者飲酒禁止法、未成年者喫煙禁止法に基づいています。20歳未満の者に飲酒、喫煙をさせないよう、具体的な措置を講じなさいとされているんです。
仮に年齢確認をしなくても、罰則はありません。しかし、違法の可能性があるのでコンプライアンスを重視する観点から、保守的に年齢確認をすることはやむを得ないでしょう。また、客が20歳未満であることを知りながら販売した場合、50万円以下の罰金を科されてしまいます」
合理的だが抑止効果には疑問
タッチパネルを客が押すことで「20歳未満と知りながら販売したわけでない」と説明できるようになる。販売する企業が罰せられる可能性は低くなるわけだ。
とはいえ、画面上には「いいえ」が表示されず「はい」一択のコンビニも少なくない。こうした状況下、レジ前にて「すみません、やっぱり自分はまだ19歳なので買うのをやめます」などと自己申告する客がどれだけいるのか。
選択の余地がないものは確認ですらないのでは?
「購入者にパネルを押させることで、20歳未満の方への抑止効果がどれだけ働いているか、たしかに疑問の余地はありますね。しかし、この手順を踏めば、違法に販売してしまうリスクを減らすことができる。
口頭で確認する手間も省け、店員が接客のたびに自ら判断する必要もない。合理的、効率的に酒、タバコを販売できるというのが企業側の視点と思われます」

弁護士の阿部由羅氏
店によっては、明らかに20歳を超えているであろう客に対しては店員が確認ボタンを押してくれるケースもある。しかし、その後、見た目が老けている20歳未満だったことが発覚した場合、店側は罪に問われるのだろうか?
「客が20歳未満であると店側が知らなかったのであれば処罰の対象とはなりません。しかし、年齢確認措置を講じなかったことは違法の可能性が高いです。この違法にあたる行為を企業としては極力避けたいところです。
特に近年、企業には法令遵守だけでなく、より広義に社会的道徳、社会的規範まで含めたコンプライアンスが求められています。店舗や店員の自主性に任せるより、一律タッチパネルで確認することで、漏れなくどの店でも年齢確認を行い、法律並びに社会道徳もきっちり守っているということになるわけです」

杓子定規なオペレーションに批判も
思い返せば、15年ほど前、コンビニで商品をスキャンした際に「年齢確認が必要な商品です」と自動音声が流れるだけの時期があった。当時、三十路を超えた女友達が「コンビニで20歳未満か聞かれちゃった」と嬉々としていた。
自動販売機購入の成人識別ICカード「タスポ」が導入されたのもこの頃で、年齢確認が厳しくなった。その後、ほどなくして喫茶店、居酒屋などではこっそりタスポを貸してくれるところも出てきた。
2026年3月末でタスポは終了となる。公式サイトによれば、その理由が「成人識別の厳格性の担保を前提とした現行システムの継続が困難」とのことだ。
これに代わって、運転免許証やマイナンバーを利用した新たな読み取り装置が導入される見込みだ。対面も自販機も、年齢確認はこれからより厳格にシステマティックになっていくのだろうか。
「仮にA社がタッチパネルでの年齢確認をやめようとしても『B社、C社はきちんと確認しているのにA社はやっていない』といった批判を受けかねない。
口頭確認に切り替えたら切り替えたで客とトラブルが生じるリスクなども考えられる。そうした状況を鑑みると、現状を変えるのはなかなか難しいのではないでしょうか」
しかし、コンプライアンスと並んで、世の中の声も店舗や企業のあり方に対し大いに影響を与え得ると、阿部氏は続ける。
「年齢確認に限らず、あまりに杓子定規なオペレーションというのは批判を受けることも。中高年にまで毎回年齢確認を求めるのは、常識的に考えてやりすぎではないかという人が多ければ、消費者にとってよりストレスの少ない方法が生まれるかもしれません」
いったい誰のため、何のための年齢確認なのか。根本的な意義を考えた運用が求められるだろう。
取材・文/小林 悟
企画・編集/一ノ瀬 伸
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