2004年の国内興行収入ランキングは、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004/135億円)、『ファインディング・ニモ』(2003/110億円)、『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(2003/103億円)といった大ヒット作を抑えて、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(2003/137億円)がトップとなっている。

世界のジョニー・デップはもともと、知る人ぞ知る個性派俳優だった!? 彼をスターダムに引き揚げた大物プロデューサーの秘策とは
日本観客も狂喜、『ラスト サムライ』で、トム・クルーズは着実に積み上げてきた人気の絶頂へ。いっぽう、前年のヒット作『パイレーツ・オブ・カリビアン』で突然強烈な熱狂に包まれたのがジョニー・デップ。その陰にはある大物の存在が。
ロードショーCOVER TALK #2004
2大シリーズを抑えて興収1位を獲った『ラスト サムライ』

『ラスト サムライ』には巻頭15ページが割かれている。渡辺謙、真田広之をハリウッドに紹介した功績も大きい
©ロードショー2004年1月号/集英社
ハリウッドが日本を舞台にした大作時代劇だが、ここまでヒットしたのは身内びいきだけではない。むしろ日本人観客はヘンテコな日本描写に厳しい。『ラスト サムライ』にツッコミどころがないわけではないものの、製作側が日本という題材に最大限の敬意を払っていたのは明白だった。日本語すら話せないアジア系アメリカ人を日本人役に起用することが珍しくないハリウッドにおいて、わざわざ日本人のキャストを起用したのがいい証拠である。なにより、ストーリーの骨組みがしっかりしていた。
ひょんなきっかけで、白人の軍人が技術力で劣る人々のコミュニティに足を踏み入れる。戸惑いながらも、主人公は彼らの文化に尊敬の念を抱くことになる。ついには、彼らを守るために、かつては味方だった軍隊との決死の戦いに挑むことになる。
『ラスト サムライ』のストーリーをざっくりまとめたものだが、これはケヴィン・コスナー監督・主演で、ネイティヴアメリカンの一員となる南北戦争の兵隊を描いた『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』(1990)とまったく同じ。ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(2009)でも踏襲されている王道パターンだ。それを近代化を目指す日本に落とし込んだところに、『ラスト サムライ』の独創性がある。
同作でプロデューサーも兼ねたトム・クルーズは1月号と12月号の表紙を飾っている。同年に公開されたマイケル・マン監督の『コラテラル』(2004)では初の悪役にも挑戦しており、もっとも脂がのった状態だった。
ジョニー・デップ時代の幕開け
トム・クルーズが正統派ハリウッドスターだとすれば、5月号、11月号の表紙を飾ったジョニー・デップは長年にわたり日陰を歩いていた個性派だ。なにしろ、盟友ティム・バートン監督をはじめ、ジム・ジャームッシュ監督(『デッドマン』1995)、テリー・ギリアム監督(『ラスベガスをやっつけろ』1998)といった鬼才との仕事を優先し、美しい顔をウィッグやメイクで隠す役柄を好んできた。
だが、ディズニー大作『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003)に出演、同年夏に全世界公開されると、一気にワールドワイドでメジャー・シーンのスターとなる。

特集名が「ジョニー・デップが最高!」。当時の熱狂をうかがわせる
©ロードショー2004年5月号/集英社
最大の功労者は、同作プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーだ。ブラッカイマーはアクション映画『ザ・ロック』(1996)の主人公に、ニコラス・ケイジを起用して大成功を収めていた。いまとなっては信じられないかもしれないが、かつてのニコラス・ケイジもまた風変わりな作品ばかりを選ぶ個性派であり、カルト的な人気のある『リービング・ラスベガス』(1995)でアカデミー主演男優賞にも輝いた演技派である。
そんなニコラス・ケイジをハリウッド大作に起用したことで、荒唐無稽なエンタメ映画に、リアリティや意外性を加えることに成功する。これがきっかけで、『コン・エアー』や『フェイス/オフ』(両作とも1997)『60セカンズ』(2000)『ナショナル・トレジャー』(2004)と、ブラッカイマーはケイジを重用していくことになる。
『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』のジャック・スパロウ役のキャスティングにおいて、ブラッカイマーの脳裏にニコラス・ケイジの成功体験がよぎったに違いない。一方、オファーを受けたジョニー・デップにしても、ニコラス・ケイジとは旧友で、ディズニー大作への出演をきっかけにキャリアが好転したことを知っていた。
その賭けは大成功し、『パイレーツ・オブ・カリビアン』は大ヒットシリーズになり、それまで“ツウ好み”だったジョニー・デップは、そのミステリアスな魅力で、世界中の映画ファンを虜にしていく。老若男女の全レイヤーに受けがいいため、「ロードショー」もジョニー一色に染まっていくことになる。
ちなみに、大作映画&個性派俳優のブラッカイマー・ケミストリーは、ほかの大物プロデューサーたちも見習ったか、その後『アイアンマン』(2008)におけるロバート・ダウニー・ジュニアの起用でも踏襲されている。シリアスな演技派や往年の大物たちが、こぞってスーパーヒーローものに登場している現状は、このころに原点があるのだ。
◆表紙リスト◆
1月号/トム・クルーズ 2月号/アンジェリーナ・ジョリー 3月号/オーランド・ブルーム 4月号/イライジャ・ウッド 5月号/ジョニー・デップ 6月号/オーランド・ブルーム 7月号/ダニエル・ラドクリフ 8月号/エマ・ワトソン 9月号/ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリント 10月号/キーラ・ナイトレイ※初登場 11月号/ジョニー・デップ 12月号/トム・クルーズ
表紙クレジット ©ロードショー2004年/集英社
ロードショー COVER TALK

女性の表紙は1年間で1回のみ! 女優主導だった「ロードショー」の歴史が完全にひっくり返ったのは、ハリウッドの体質の変容を反映していたから!?
ロードショーCOVER TALK #2005

『ハリポタ』人気にオーランド・ブルームの登場で盛り上がる洋画界。だが、日本映画の製作体制の劇的変化が、80年代から続いてきた“洋高邦低”を脅かし始める…
ロードショーCOVER TALK #2003

『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリポタ』と特級シリーズの開始で元気なハリウッド。しかし、この“シリーズ”こそが、映画スターと映画誌の命とりとなっていく…!?
ロードショーCOVER TALK #2002

A級スター入りしたアンジェリーナ・ジョリーが指し示した新たな方向。21世紀が始まるも変わらず元気なハリウッド映画界で、さまざまに多様化していくスターの生き方
ロードショーCOVER TALK #2001

ニューミレニアム到来。2000年代以降を牽引するジョニー・デップやアンジェリーナ・ジョリーが頭角を現す。が、映画界の裏では、悪辣で大がかりなハラスメントが進行していた!?
ロードショーCOVER TALK #2000


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ロードショーCOVER TALK #1998
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