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抗うつ剤を試し飲みして「死にたく」なった医師

いつまで薬を飲ませ続ければいいのか。講談師・神田香織さんが“統合失調症の娘を持つ母”として落胆した「日本の精神医療の遅れ」_1
神田香織。福島県いわき市出身。1981年、二代目神田山陽に入門。1989年に真打昇進。1986年、講談「はだしのゲン」公演で日本雑学大賞を受賞するなど、社会派講談の第一人者として知られる
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さて、娘が19歳の時に発症した精神疾患のひとつ統合失調症。これについてはたくさんの書籍が出てますが、はっきり申し上げて玉石混交に思えます。

また、食生活も本当に大切です。昨今はミネラル分の抜けてしまった食品が多く、それらが精神疾患や発達障害などの増加遠因になっているという指摘もあります。

精神科医の、蟻塚亮二先生の著書『悲しむことは生きること』の中に、ミーがなぜあのような危険な行動に出たか、そのヒントに思えることが書かれていました。

「私は患者さんに処方する薬はほとんど試し飲みしている。ある時、新しい抗うつ剤が販売されたので、例によって試し飲みしていた。その数日後、外来診察していて突然『死にたく』なった。

おかしいな、今、自分は死ななければいけない理由は一つもないのに『死にたい』という気持ちが頭の中に浮かんでくる。

これは新型の抗うつ剤を『不規則でいい加減』に飲んでいたせいだと思い、医局にもどって机から安定剤を1錠取り出して飲んだら『死にたい』はなくなった。薬を不規則に飲むと血中濃度が上がったり下がったりを繰り返し、薬の副作用ばかり出る」

この蟻塚先生ご自身の体験、私は説得力があるように思います。

ミーはまさにこの「薬の副作用ばかりが出る」状態で、飲まなくなっては不安定になり、入院して落ち着く、退院してしばらくするとまた……この繰り返しでした。

ミーの担当医は誰もが「きちんと飲んでください」とは言うものの、「飲まないと薬の副作用が強くなり、最悪の場合死にたくなることがあるかもしれない」と具体的に話すことはありませんでした。

2023年8月に電車と接触し、両脚切断という大けがを負ったときもミーは幻聴から逃げるように電車に乗ろうとして足を滑らせて、動き始めた車両と車両の間に飛び込んでしまったのでした。

思えば治療についてこの10年間、ありとあらゆる方法を試したものです。「薬を抜けば治る」といった内容の本を読んでは、藁にもすがる思いでその病院に駆け込んだり、毛髪で栄養分を分析して高価なサプリを買い求めたり。しかし、本人はいつも妄想や幻聴と闘うのに忙しくて、私の言うこともうわの空で聞いていることが多かったように思います。