小さな「自治」の力で、社会を変えられるのか?

――「人新世の複合危機」を前にして、「自治」の力を磨く重要性はよくわかりました。では、「自治」の力を磨くにはどうしたらいいのでしょうか。ちゃんと成功している例なんてあるのでしょうか。

斎藤 遠回りのようですが、身近な問題を見過ごすことなく、アクションを起こしていくことから始めるしかないでしょう。イギリスの例ですが、自分の町のバスなど公営の交通網が民営化され、不便になったことに憤った女性3人のグループがありました。利用者のアンケートを取ったり、再公営化を願う署名活動を行ったり、彼女たちが始めたのは本当に小さな活動です。

しかし、それを繰り返し、活動の力をつけていくうちに、ほかの町で同じ問題に直面している人たちともつながりはじめ、交通網の民営化の失敗がイギリス各地の共通の問題として知れわたるようになりました。数年後、民営化されていた旧国鉄の一部さえもが、再び公営化されたのです。

斎藤幸平が考える“人新世のリーダー論”。「ボトムアップ型の自治では、カリスマ型のリーダーがひとりではなく、自分の得意分野で自主的に動くことのできる人が大勢いる“リーダーフル”な状態が重要」_1
斎藤幸平氏
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日本でいえば、186票差で現職区長を破り、奇跡と呼ばれた、昨年の杉並区の区長選がいい例でしょう。地域の不要な再開発や児童館の廃止など、身近な問題を話し合う区民のグループのいくつかが集合して数年にわたって政策集を練り上げ、それに合う候補者を選んだのです。

白羽の矢が立ち、選挙にも勝った岸本聡子さん自身は、欧州のシンクタンクで公共政策の研究をしていた経験はあったものの、れいわ新選組の山本太郎さんのような、わかりやすいカリスマ的リーダー性を持ち合わせているわけではありません。

むしろ、選挙の主役は区民でした。自分たちの身近な問題を解決するにはどうすればいいのか考え、コツコツと活動を続けてきた。そうした地道な一歩一歩が「自治」の力をはぐくみ、また大きな成果を生むのです。