娘の生理痛や生理不順にも使っていいの? ピルを使っていい年齢、おすすめできない年齢…「血栓症のリスクが高くなるため40歳以上は注意が必要」人気産婦人科医が警鐘
現代の女性たちにとって、自らの生理を都合にあわせて調整するという前向きな姿勢でピルを使いこなすことも大事なスキルだ。ピルが女性の生活にもたらすメリット、デメリットをしっかり学ぼう。『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』#2
ピルという治療方法を選べる時代
この10年あまりの大きな変化は、月経困難症や子宮内膜症の治療に、低用量ピル(ピル)が使えるようになったことです。
もともとピルは避妊薬としてアメリカで認可され、その後も安全性の高いピルが開発されています。日本では1999年に認可されました。それから約10年後の2008年に、治療目的として保険適用されました。
少し細かい話になりますが、当初は、保険が適用されるのは子宮内膜症による月経困難症の治療に限られていました。

ピルがどのように子宮内膜症に効くかというと、例えば、子宮内膜症の一種であるチョコレート嚢胞(卵巣に発生するもの)で、3センチ以上の嚢胞がある患者さんに投与すると、嚢胞のサイズが有意に小さくなることが報告されています。
しかし、子宮内膜症と診断されないと保険適用できないというルールがあり、医療の現場では少し使いづらいところがあったのです。
子宮内膜症だと診断するためには、エコー検査やMRIの画像診断で病巣が確認できなければなりません。しかし、例えば、卵巣にできた嚢胞は、数ミリのときはエコーでは確認できません。2センチ弱ぐらいになってようやくはっきりと確認できて、子宮内膜症だと診断できます。
つまり、診断が確定するまで何年もかかるのです。
「そのあいだピルが処方できないのは合理的ではないのでは?」という声があがり、2010年に、月経困難症の診断でも、ピルが保険で処方できるようになりました。
現在の私たちは、月経困難症を軽くする─生理痛を緩和する、生理の回数を減らす、生理のサイクルを安定させる、生理前の体調のイマイチさを緩和する─というさまざまな目的のために、ピルという治療方法を選べる時代に生きているのです。しかし、こういった情報が必要な方にまだまだ伝わっていないと感じます。
また、若いうちに月経困難症を軽くするためにピルを選択することは、子宮内膜症の予備軍の可能性がある方にとって、それを予防することにつながるとも考えられます。そういったピルの使い方も、もっともっと知られてほしいと思います。
ピルは生理が始まっていれば服用が可能
日本でピルがあまり広まらないのは、避妊のためのお薬というイメージが根強く、しかも、避妊法としてピルを選択する人自体も少ないためかもしれません。
そもそもピル(低用量ピル)とはどういうものかというと、女性ホルモンの作用を利用するお薬です。低用量ピルと呼ばれる薬には、1錠の中にエストロゲンとプロゲステロン(正確には黄体ホルモン)の両方が含まれています。
この薬を飲み続けることによって、からだの中にエストロゲンもプロゲステロンもすでに存在していると錯覚するような状態が生まれます。
そうすると、エストロゲンの分泌のピークがつくられなくなり、排卵が抑制されます。排卵しないので妊娠しないし、子宮内膜が厚くならない、という仕組みで効果を発揮します。服用をやめると元の状態に戻ります。
日本では、経口避妊薬として使われる自費のピルと、月経困難症・子宮内膜症に使われる治療目的のピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)を区別して呼んでいますが、基本的な作用は同じです。

ピルを飲み始めていいのは何歳からか、また何歳まで飲み続けていいのかというのは、気になるところだと思います。
まず、40歳をすぎてからピルの服用を開始するのは、おすすめしていません。ピルの副作用の一つである血栓症のリスクは、飲みはじめのタイミングが高いからです。
それ以前から服用している場合は、40歳でやめなければいけないということではなく、原則として、閉経まで、もしくは50歳までは服用を継続することができます。
では、下は何歳から服用できるかというと、生理が始まっていれば服用が可能です。
「まだ10代だからピルは飲めない」ということはなくて、生理痛や生理不順で困っていれば、何歳からでもピルの服用を検討することができます。
また、鎮痛剤と併用することもできます。痛み止めが効かないからピルを飲む、という順番ではなくて、はじめからピルを選択することもできますし、ピルを飲んでいるけどまだ痛みがあるから鎮痛剤を足すということもできるわけです。
このあと、ピルについて、私たちの生活にどのようなメリットをもたらすかをもう少しお話ししたいと思いますが、ピルの服用をおすすめできないケースもありますので、先にお伝えします。
年齢が上がることで血栓症のリスクが高くなるほかに、喫煙の習慣のある方、高血圧の方、肥満の方、前兆を伴う片頭痛のある方、乳がんの方、糖尿病の方には、ピルを処方できないことになっています。
そのほかにも、健康上のリスクがある場合は慎重投与となりますので、ピルの服用を検討する際は、必ず、婦人科の医師とよく相談なさってください。
生理をコントロールするピルの使い方
例えば、仕事で大事なプレゼンがあるとか、絶対に成功させたいイベントがあるなど、ここぞというときに生理の一番重い日が重なりそう、という心配ごとは、年齢を問わず、多くの女性に共通する悩みだと思います。
中学生・高校生の女子生徒のみなさんの場合で言うと、例えば、スポーツ系の部活動に打ち込んでいる方の中には、大事な試合の日に生理が重なってしまって、思うようなパフォーマンスができなかったという経験がある方も多いのではないでしょうか。
もちろん、スポーツに限らず、林間学校や遠足など学校生活で困ったことがあるという方もいると思います。
私は婦人科のスポーツドクターとして、女性アスリートやジュニアアスリートのサポートをしていますが、やはり生理にまつわる悩みを持っている選手は少なくなく、こんな相談を受けることがよくあります。
Q.アスリートとして「ここ一番」というときにベストコンディションでのぞみたいのですが……
アスリートを対象に、月経周期のなかでどのタイミングで体調が悪いかというアンケートをとってみると、二つの時期に回答が集中します。それは、「生理中」と「生理前」です。
一方、調子がいいときはいつですかと聞くと、7割の方が「生理が終わった直後」と答える一方で「生理中に調子がいいと感じる」という方がいらっしゃるのも事実で、さらに、「月経周期による変化はあまり感じない」という方も1割弱いました。
何を言いたいかというと、自分は月経周期のどのタイミングに調子が悪いと感じるのか、まずは観察してみてほしいのです。生理中なのか生理前なのか、両方なのか。そして、調子が悪いことに対して何ができるだろうか、と対策法を考えてみるのが次のステップになります。

生理の重い日が一番つらいから、大事な試合やイベントと重なってほしくない、と考えたとします。
「生理が重い」の中身を見てみると、大きく二つに分けることができます。一つは、月経困難症─おなかが痛い、腰が痛い、気持ち悪くなる、こころの状態が落ち込むなど─によるもの。もう一つは、出血するという、物理的に困る状態ですね。
出血に対しては、生理用品のチョイスによって対策ができる程度であればそれでいいということになりますが、月経困難症が重なると、生理用品だけでは対応できません。となると、今は生理期間を変更させる目的でピルが使える時代ですから、大事なイベントの当日に生理が当たるとわかっているのに、わざわざそのままにしておくのはもったいないよね、生理の時期をずらしましょうか、となるわけです。
アスリートの場合、最初にパフォーマンスに関する悩みを相談する相手は指導者であることが多いと思われますが、女性ホルモンと運動能力や心身の不調の関連について十分に理解している指導者ばかりとはいえず、まだまだ婦人科医をはじめとした専門家からの情報発信が必要な分野だと感じています。
ジュニアの場合は特に、相談できる大人が近くにいることが大切であり、保護者のみなさんにも基本的な知識を持っておいていただけるとありがたいです。
また、アスリートの例でお話ししましたが、「パフォーマンス」には、ほかにもいろんな場面が含まれます。
現代の女性たちは、仕事はもちろん、さまざまなかたちで社会に参画していて、責任ある立場に就いている女性も増えてきています。生理の時期をずらすまでいかずとも、生理痛を緩和したり、経血の量を減らしたり、月経周期をコントロールしたりというふうに、自分の生理を自分の都合にあわせて調整するという前向きな姿勢でピルをうまく使うことも大事なスキルだと思っています。
怖がらないために知るピルの副作用とリスク
ピルは、女性の生活にメリットをもたらす一方で、デメリットもあります。
デメリットの第一は、副作用のリスクです。
ピルは、からだの中に外から女性ホルモンをとりいれて、脳に「すでにエストロゲンとプロゲステロンがありますよ」と錯覚させることによって、排卵を起こさないようにするお薬です。服用したらすぐに効果があらわれるものではありますが、からだが慣れるまでに2カ月から3カ月かかることが多いです。
そのあいだに、不正出血や吐き気、むくみ、倦怠感、気分が落ち込む、肌が荒れるといったマイナートラブルが生じる場合があります。
もっとも多いのは不正出血で、服用した人の2割前後が経験するとされています。これらの症状は、からだがピルに慣れていけば気にならなくなっていく可能性が高いとされています。
それでもマイナートラブルが続くとか、やっぱりピルはからだに合わないという方もいらっしゃいます。あるいは、ピルを飲んでいるのに、生理痛や生理前のイマイチさが改善されたと感じられないケースもあります。
そのような場合は、そのピルを使うのをやめましょう、という判断をするでしょう。ただ、そのピルが合わなかったからといって、自分の調子の良さを手に入れることをあきらめなくてもいいのです。

40歳以上でのピルの服用には注意が必要
では、かわりにどんな方法があるかといえば、じつはひと口にピルといっても、いくつも種類があるんですよね。
例えば、エストロゲン含有量がより少ないピル(超低用量ピル)を試してみるとか、エストロゲンと合わせるプロゲステロン(正確にはプロゲスチン=黄体ホルモン)の種類を変えたお薬にしてみるとか、ピル以外のホルモン治療、プロゲスチン製剤(エストロゲンが含まれていないホルモン製剤)に変更してみるという方法も挙げられます。
また、月経困難症の原因が子宮内膜症や子宮筋腫といった疾患であるとはっきりしている場合は、手術という選択も視野に入ってきます。
いずれの場合でも、ピルを安全に使い続けるためには、自分のからだの状態をよく観察しながら、婦人科の医師とよく相談することが必要です。
ピルのリスクでもっとも重篤なものに、血栓症があります。例えば、片脚だけにギュッと握られたような痛みがある、ふくらはぎのあたりがうずくように痛む、といった症状は血栓症の疑いがあります。
今まで経験したことのないような激しい頭痛や、胸を刺すような鋭い痛みなども、血栓症の症状によくみられるものです。こういった症状があらわれたら、すぐに医師に相談してください。
ピルは原則的に閉経を迎えるまで服用できますが、年齢が高くなると血栓症のリスクが高くなるため、特に40歳以上では注意が必要です。
基礎疾患がないか、肥満や高血圧がないかなどで、リスクの評価は変わってきますが、ピルを服用しているあいだは定期的に受診をして、問題が生じていないかをチェックすることが大切です。
そのほかには、毎日決まった時間に服用しなければならないので、そのわずらわしさがデメリットになるかもしれません。
経済的な負担も軽く見ることはできません。低用量ピルの値段は、本書を執筆している2023年8月時点で、保険診療で処方される場合は1シート(約1カ月分)500~2350円程度です。そのほかにクリニックの診察代がかかります。
デメリットをたくさん挙げたので心配になってしまったかもしれませんが、かかりつけの医師としっかりコミュニケーションをとり、メリットとデメリットを比較して、自分にとってプラスになるような選択をしたいものです。
女性は一生を通じて女性ホルモンに大きく揺さぶられます。だからこそ、私たちのほうから、積極的に女性ホルモンをマネジメントするような選択ができないか考えていきたいものです。ピルについて正しく知ることは、その選択肢を一つ増やすことになりえるでしょう。
文/高尾美穂 構成/長瀬千雅
『娘と話す、からだ・こころ・性のこと』(朝日新聞出版)
高尾 美穂 (著)

2023/9/20
¥1,760
256ページ
978-4023322929
NHK「あさイチ」出演で人気の産婦人科医・高尾美穂さんは、更年期外来を訪れる母親から思春期の娘の心身や性教育の相談を頻繁に受けるといいます。
女性の人生の二大ピンチの時期にあるふたりは、共に心身不安定だからです。
本書は、この時期に限らず、母と娘がどんな状態でも落ち着いて性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポートします。
同性ゆえのむずかしさがある、母と娘の関係性を築くきっかけになることを願っています。
女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らずおすすめしたい本書ですが、さらに、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。
―目次―
【Chapter.1】 女性の二大ピンチ到来! このチャンスに話そうよ。
【Chapter.2】 知らないうちに働いてくれている? 女性ホルモンの“ふるまい”を観察!
【Chapter.3】 20年前とは劇的に変化。「生理について」をアップデートしなきゃ。
【Chapter.4】 お母さんには言いづらい。でも、気づいてほしい。
【Chapter.5】 人生を、まず自分で守るために。セックスとHPV を語り合おう。
【Chapter.6】 そもそも、子どもを産むって、どんなこと?
【Chapter.7】 どうして私、女の子に生まれちゃったの?
【Chapter.8】 母も娘も“私の人生”を歩いていこう
〈付録 女性の人生年表Q&A それぞれの年代で起こりうること、気をつけたいこと〉
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