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ひきこもりの「救済人」

新年早々から気分が重くなるようなテレビ番組だった。

2021年1月5日にBSテレ東で放送されたバラエティ番組「どうしてこうなった!? どん底人生からの救出スペシャル」。

自宅でたまたまテレビをつけたら放送していたのだが、いわゆる「ゴミ屋敷」で暮らす女性などとともに、「中年ひきこもり男」が支援業者に「救われる」までの様子がドキュメンタリー映像と再現ドラマで紹介されていた。そこには3週間前に取材したばかりのあのB氏の姿があった。

B氏は神奈川県にあるひきこもりの自立支援施設Bスクールの代表だ。メディアの出演も多く、ひきこもり支援をテーマにした著書もある。

冒頭は、ところどころにボカシの入ったごく普通の一軒家の映像。階段を上っていくと床に現金1200円があり、閉まった部屋の扉の前に、お盆に乗せた食事が置かれている。そこに、大げさなナレーションが入る。

「なんなんだ、この家は~」

ひきこもりに苦しむ人を「親に迷惑をかける困った人」と放送するTVの都合…メディアが本当に伝えるべき「自立支援」の実態とは_1
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そして、この家に住む44歳の長男がもう15年もひきこもっているという事情が説明され、「部屋から出てこない」「もう限界ですね」という家族の悲痛な声が紹介される。

するとまた先ほどのナレーションが「どうしてこうなった~」。番組タイトルの「どん底人生」とはつまり「長年ひきこもっている」ということを指している。

そして「熱血救済人」としてこの家にやってくるのが、B氏だ。

B氏が長男の部屋のドアの前で、「お母さんとの話し合いにきてもらいたい」と声をかける。

意外にもあっさりと部屋をでてきた長男の顔の上には「中年ひきこもり男」と書かれたボカシの文字。そしてB氏の指示に従って、ダイニングテーブルで、B氏を挟んで母と長男が向かい合う。

母親が訴える。

「お母さんの命があとどれだけあるか分からない」
「年金であなたを支えられない」

B氏も「親に頼る歳じゃないだろう」と説教する。長男はだまり込み、その後、「あしたハローワークに行きます」。

するとB氏は「(それは)無理」と突き放す。

「面接に行って、君この15年間、何やってたのって。履歴書出して(採用する側の企業の担当者は)どう思います?」

「何年もの間、あなたは何やってたの?」――これは引きこもっていることに悩み、ふがいない、後ろめたいと感じている当事者を簡単に、確実に屈服させることのできる殺し文句だと思った。

そして、「自立へのステップ、足がかりに我々が支援できますよ」と施設への入寮を提案し、長男はスタッフが運転する車に乗って、B氏が運営するスクールに向かった。