熱海、箱根、河口湖…水面下で進む中国資本による日本の高級旅館買収。「腕のいい板前も高い給料で引き抜かれている」
土地、ホテル、水資源、森林。「国益を損ねる大問題だ」とたびたび話題になる中国人の“日本買い”。その背景にはいったい、なにがあるのか? 中島恵氏の「中国人が日本を買う理由」より一部を抜粋、再編集してお届けする。
中国人が日本を買う理由#1
熱海で最高級クラスの温泉ホテルも中国資本
中国人による日本のホテルや旅館買収は、コロナ禍になって以降も水面下で進んでいる。静岡県熱海市や神奈川県箱根町は買収を考える中国人にとって人気のエリアだ。22年9月に開業した『熱海パールスターホテル』も中国系投資会社「国際観光資源開発」の出資によるものだ。
温暖な熱海を象徴するような海沿いのサンビーチ。有名な撮影スポット「お宮の松」の目の前にそびえる。かつて、老舗の『つるやホテル』があった場所で、いまも熱海の一等地だが、周辺の旅館やホテルより高級感が漂う。

23年2月、旅行予約サイトでチェックしてみるとプレミアスイートが一人一泊16万円だった。コロナ禍前、年間の観光客数が300万人以上だった熱海では、旅館やホテルの値段が高めに設定されているところが多いが、同ホテルはその中でも最高クラスで、現地では「中国人と日本人の富裕層向けだろうか」と噂されている。
以前、熱海で板前をしていた知人に話を聞いてみた。すると、口を濁しながらも「腕のいい板前は日本のホテルよりも高い給料でそういう高級ホテルに引き抜かれているようです」と話してくれた。
同様に、ホテルや旅館買収計画は山梨県河口湖町、群馬県草津町などで増えている。いずれも温泉が昔から有名で、東京から距離的に近いという共通点がある。
スキーができないのにニセコを訪れる人々
中国資本に買収された宿泊施設の数に関する統計はないが、経営者が高齢で引退したタイミングで売りに出され、それが在日中国人の不動産業者などを介して、中国人富裕層の手に渡っている。
同様の動きは他の都市でも加速している。とくに中国資本が大量に入っているといわれるのが京都の町家や北海道のリゾート地だ。
北海道といえば欧米人、とくにオーストラリア人が多く集うニセコが有名だが、昨今、ニセコにも急増しているのが中国人だ。

中国で最初に北海道が注目されたのは08年。中国で大ヒットした映画『非誠勿擾』(フェイチェンウーラオ 邦題:狙った恋の落とし方。)の舞台が道東だったことから、最初の北海道ブームが起きた。
以降、雪がほとんど降らない上海以南などに住む富裕層の間でも注目され、とくにニセコのパウダースノーは中国人の憧れの存在になった。
北海道経済部観光局のデータによると、コロナ前の19年、北海道を訪れた中国人観光客は約59万4000人と、全外国人観光客の4分の1を占めた。
雪が降らない中国南部、広東省広州市に住む40代の知り合いは、以前日本に住んでいたときにスキーを覚え、コロナ禍前までは、毎年、春節前の比較的航空券が安い時期に北海道までスキー旅行に出かけていた。
その人は「16~17年頃だったか、ニセコに急激に中国人が増え始めたな、と感じました。スキーはできなくても、投資目的で、高級コンドミニアムなどを見学したり、投資の相談にきたりした人もいたようです。香港やシンガポールの人も多かった」と話す。
その人が現地のコンドミニアムの人と話したところ、「外国人の投資のおかげでニセコの地価がどんどん上がっている。おかげでニセコが潤っている」といい「自分は喜ばれているように感じた」という。
水資源、森林も「爆買い」されている
中国人の買収で問題になっているのが水資源だ。21年8月の西日本新聞の報道によると、熊本県の水源地を北京市の不動産投資会社が数年前に購入していたことがわかった。その後、現地に建物などは建設されていないが、同様の動きは他県でも起きている。
爆買いブームの初期、中国人は単に免税店やドラッグストアで買い物だけをしていただけだったが、日本には、外国人が土地や不動産購入を制限する法律があまりないとわかり、日本にとって大事な資源である水や森林までが、彼らによって、粛々と「爆買い」されている。

報道されると一時的に「規制がないのは国益を損ねる大問題だ」とネットを中心に騒がれるが、報道から時間が経てば、忘れられてしまう。
中にはあまり価値がないと思われる山間部の土地や小さな島までも買われている。23年2月にも、中国人が沖縄県の無人島を購入したことが話題になったが、そうした点について在日中国人はどう思っているのか。知人に聞いてみた。
「日本人から見てあまり利用価値がないと思われる土地でも、たとえば、中国人向けレジャー施設を作るとか、何かに利用できるのでは、と思って買っていると思います。中国で実現できないことが、日本では安価で実現できるので、何かに使える、と考えるのでしょう」
別の知人はこういう。
「結果的にその土地で経済活動が行われれば、周辺経済も潤うなど日本への貢献につながる可能性もあるとは思いますが、日本人は決してそうは受け止めない。恐怖心や怒りを感じます。だから、私は個人的には(中国人による日本の土地の)買い占めには絶対反対です。必要以上のものまで買って、日中関係を悪化させないでほしい」
やや古いデータだが、林野庁の統計によると、17年に外国の法人または個人が北海道で買収した森林面積は東京ドームの約11個分(約53ヘクタール)。そのうちの約半分(25・43ヘクタール)は香港を含む中国系資本によるものだった。
折に触れて報道されている中国人の水資源や土地の買収問題。日本政府は22年秋、安全保障面で重要な土地の利用を規制する「重要土地利用規制法」を施行した。内閣府のサイトによると、北海道、青森県、東京都などにある場所が該当するが、沖縄県の無人島は該当しなかった。
日本政府が手を打たないでいる間に、日本のものが皆、中国資本になってしまうのではないか、街が乗っ取られてしまうのではないか、と心配している日本人は多い。
文/中島恵 写真/shutterstock
中国人が日本を買う理由 (日経プレミアシリーズ)
中島恵

2023年5月9日
990円
224ページ
978-4296118069
多くの中国人の声から論じる、まったく新しい「日本論」!
高成長が曲がり角を迎え、コロナ禍以降は社会に息苦しさも感じる――。
ここ数年、中国人が母国を見る目が変わりつつある。統制が厳しくなる一方の社会、格差が広がり先行きの暮らしにも大きな不安を感じる。
そして彼らは日本に目を向ける。食事、教育、文化、ビジネス、社会……。距離的に近く、安心・安全、そして何よりコスパのいい国にどれだけの魅力を感じるのか。
豊富な取材により、多くの中国の人々の声から浮かび上がる、新しい日本論が誕生しました。
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