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「『黒い雨』訴訟」は、被ばくを強いられた原爆被害者を本当に救ったのか。

広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡り、従来の援護対象区域より広い範囲を救済するよう国に命じた広島高裁判決。その確定を受けて2022年4月、新しい被爆者認定制度の運用が開始された。

しかし、「黒い雨被爆者」たちの闘いに、終止符は打たれなかった。新しい制度の下でも、切り捨てられる人がいたのだ。

広島・長崎の現場を報告する本連載の第2回は、前回に続き、この4月に提起された「第二次『黒い雨』訴訟」についてお伝えする。 今回焦点を当てるのは、黒い雨に対する《差別》の問題だ。

「新しい被害者の《線引き》が生まれている」

2023年4月15日、広島市内の会議室。杖を持つ人、車いすに座る人――集まった約60人は、「第二次『黒い雨』訴訟」への参加を決めた原告予定者と、その支援者だ。それぞれの胸中にあるのは、不安と、強い意思だろうか。

原告団の結成集会となったこの日、その闘いを共にする弁護団事務局長の竹森雅泰弁護士がマイクを持つ。

「新しい被害者の《線引き》が生まれている。こうした被爆者認定のあり方を是正して、全ての『黒い雨被爆者』を救済する。そのために裁判を起こしたいと思います」

手帳取れずに死去した夫 救済阻む「黒い雨」差別_1
原告団結成集会で、第二次訴訟の意義を説明する竹森雅泰弁護士(右)と、弁護団長に就く足立修一弁護士=2023年4月15日午後2時55分、広島市内で筆者撮影
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前回、広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びた人たちが、再び訴訟を起こすことになった経緯を紹介した。当初の「黒い雨」訴訟(第一次訴訟)では2021年7月、広島高裁が、従来の援護対象区域の外側で雨を浴びた人たちを「被爆者」として認め、国側に救済を命じた。その判決確定を受け、国は新しい救済制度を作成。2022年4月から運用を始めたが、その制度からも切り捨てられた人がいたためだった。

「第二次『黒い雨』訴訟」には、新制度で被爆者健康手帳を却下されるなどした23人が参加する。弁護団は第一次訴訟と同じ顔触れで、国の被爆者援護行政を動かした7人だ。

新制度は、①広島の「黒い雨」に遭い、その状況が「黒い雨」訴訟の原告と同じような事情にあったこと ②障害を伴う一定の疾病にかかっていること――の2つを被爆者認定の要件とした。①は前回取り上げた通り、過去に作成された3つの降雨域を巡る、新しい《線引き》の問題だ。

今回焦点を当てるのは、②の「疾病要件」だ。3月末現在、県内では申請者4696人中184人が手帳の交付を却下されているが、②が理由となった人は半数を占める。原告予定者でも、後述する1人がこれに該当していた。

②の要件を掘り下げて考えると、黒い雨に対する《差別》が見えてくる。

この4月末に提訴された訴訟でも、重要な争点の1つになる見通しだ。竹森弁護士は言う。

「手帳は、いつ病気になるかわからない人に渡して、健康診断や手当を受けてもらうためのもの。『黒い雨に遭った』なら、被爆したと考えるべきで、疾病を認定要件にするのはおかしい」