1978年にオープンした湯乃泉「草加健康センター」は、今年で35周年を迎える老舗の健康ランドだ。
地域に根ざし、地元民に愛される憩いの場として、今もなお老若男女問わず、多くの人に利用されている。同施設マネージャーの佐々木さんは2015年に入社して以来、歌謡ショーやビンゴ大会の企画など、施設のさまざまな運営に携わってきた。
そんななか、時代とともに「スーパー銭湯」が台頭し、施設利用者のニーズが多様化したことで、昭和の風情が残る「健康ランド」は変化を迫られている。草加健康センターも、2012年に大幅な増築リニューアルを行い、新たな提供価値の創出や顧客の開拓を図ってきた。
そうした背景のなか、2016年に全社を挙げて「サウナに全振りする」という井手翼社長の号令がかかり、「サウナ」強化に取り組んできた。その中心にいたのが佐々木さんだった。
【サウナ大賞3年連続1位】爆風ロウリュが人気の起爆剤に。サウナ愛あふれる「草加健康センター」がコロナ禍を過ぎても利用者数を制限している理由
空前の「ブーム」から、もはや「文化」へと定着しつつあるサウナ。全国に1万箇所以上ある施設の中でも“サウナーの聖地”として名高いのが、埼玉県草加市にある湯乃泉「草加健康センター」だ。「SKC」の愛称で親しまれ、「週刊SPA!サウナ大賞」では3年連続総合ランキング第1位に選出されている。同施設を運営する湯乃泉グループの佐々木厚さんに人気の秘訣と今後のトレンドを聞いた。
サウナに全振りした健康ランドを目指す

サウナ黎明期からサウナに熱心に取り組んできた佐々木さん
「当時、草加健康センターの支配人だった現社長の井手が、全スタッフを集めて『これからはサウナに注力していく』と宣言したんです。今思えば、先見の明があったなと感じていますが、そのころはサウナ利用が目的で施設へ訪れるお客さまは少なく、サウナの魅力をいかに伝えていくかが課題でした」
ロウリュ来客者ゼロからサウナの魅力を伝える苦労
2016年以前から、草加健康センターにはサウナ室があった。
だが、サウナブーム隆盛前は、フィンランド式サウナの“ととのい”を求めるサウナの入浴方法が周知されておらず、あくまで健康ランドの一施設に過ぎなかった。
今ではサウナに欠かせないロウリュも、週2回程度の開催だったそうだ。現在は機械式のオートロウリュも浸透しているが、草加健康センターはスタッフがうちわで扇ぐスタイルで、「3、4人のお客様がいればいいほうで、まったく客入りのない日も珍しくなかった」と佐々木さんは振り返る。
「『ロウリュなんていらないから、ゆっくりサウナに入らせてほしい』。そうした声をいただくこともあり、お客様にサウナの魅力を伝えるのは相当苦労しましたね。何か効果的な施策があるわけでもないので、『1度でいいので、ロウリュ体験を受けてもらいたい』と一人一人にお客さまへ呼びかけ続けることを地道に徹底しました」
“爆風ロウリュ”がサウナ好きの間で話題に
転機となったのは、ロウリュにうちわやタオルではなく、ブロワーと呼ばれる送風機を使い始めてからだった。

草加健康センター名物のブロワーで行われる「爆風ロウリュ」
「これまでは、たとえお客様がいないときも、ロウリュの時間になれば、うちわを扇ぎにサウナ室へ入っていました。1回やるたびに“へとへと”になるくらい体力を使うんですが、『スタッフが疲れ切っている姿は見るに耐えない』という社長の井手の判断で、2017年ごろからブロワーで熱波を送るスタイルに変えたんです。これが、今でも草加健康センターの名物となっている“爆風ロウリュ”の始まりでした」
サウナ室で一人一人にブロワーで爆風を5秒ずつ浴びせるスタイルは、サウナ好きの間で徐々に広まり、「草加健康センターのサウナはスゴい」というクチコミが増えていった。
筆者も爆風ロウリュを体験したが、「とんでもない熱波が襲いかかるストロングスタイル」はこれまでのサウナ体験には比類なく、かなりの衝撃を受け、すぐさま水風呂に向かってサウナ室を飛び出してしまった。それだけ、草加健康センターの「爆風ロウリュ」はインパクトが大きかった。
また、ロウリュイベントの人数制限や催行時間を区切らないことも、草加健康センターならではの特徴になっている。
「定員制を敷いてしまえば、満員で入れないお客さまが出てしまいます。ロウリュイベントへ参加するために並んでいただいたお客様全員に、平等に楽しんでもらいたいという思いから、イベント時は出入り自由にしているんです。
お金と時間をかけてご足労いただくお客さまに、気持ちよくなって帰っていただきたい。創業当初から変わらない提供価値を心がけてきたこと、さらにサウナブームの到来が相まって、サウナーからも愛される施設に成長したと思っています」
コロナ禍以降も利用者数を制限している理由
順風満帆に見えるが、コロナ禍では集客が落ち込み、厳しい状況も経験した。
しかし、質の高いサービスを提供するために「適正人数を見直すいい機会になった」と佐々木さんは言う。
「コロナ禍では、従前のキャパシティに対して6割程度の下足箱の使用に利用人数を留めていました。当時は3密対策でソーシャルディスタンスを保つ意味でも、館内のお客様の収容人数を抑える必要があったんです。ただ、実は今でも残り4割の靴箱はオープンにしていません。“サウナーの聖地”と呼んでいただくほどの施設になったからこそ、人が溢れかえってしまい、サウナ室の外に待機して並ぶのは、不快でしかないでしょう。
お客さまのニーズ自体も、以前のような銭湯に行って、お酒を飲んでゆっくり寛ぐスタイルから、日常生活の合間に1~2時間ふらっと訪れ、心身を“ととのえる”というスタイルに変わってきていると感じています」

草加健康センターでくつろぐ人々
サウナブームが活況で、コロナ禍を境に夕方以降の時間帯では、20代〜30代半ばの若年層の利用者が圧倒的に増えてきているという。他方で、平日の昼間は地元の常連やシニア層でにぎわう、昔ながらの健康ランドとしても機能しており、「うまく棲み分けができている」と佐々木さんは語る。
今後としては、「多くのお客さまが安全、安心にサウナを楽しめるような施設を作っていきたい」と目標を掲げる。
「サウナが単なるブームで終わってほしくない。サウナと何かを掛け合わせ、文化として昇華させていけば、サウナを好きになる人の裾野がさらに広がると期待を寄せています。その一方で、物には程度があるように、サウナに対する熱意が行き過ぎた方向に寄ってしまえば、大事なものを見失ってしまう恐れもあります。
優劣を競うのではなく、いろんなサウナの楽しみ方を共有し合う。もちろん、守ってるだけでは衰退するので、試行錯誤しながら前には出ますが、それでも出過ぎないように注意しながら、サウナ文化を盛り上げていきたいです」

ラッコの看板が目印の「草加健康センター」
取材・文/古田島大介
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