改築を決意した背景には、こんな思いがあった…
「松本湯」は昭和11年(1936)に創業された老舗の銭湯。同年が「2.26事件」の年というと、その歴史が実感できるかもしれない。それから50年ほどを経た昭和63年(1988)に、ビル(マンション)型の銭湯に改築され、そのときにサウナが併設された。
「サウナ室」で体をあたためて発汗し、その後「水風呂」でクールダウンしたあと「イスなどで休憩」する。これが現在、王道とされているサウナのルーティーンだが、松本湯では創業以来ずっと地下から汲み上げた水を使用していて、その水風呂のまろやかな気持ち良さは知る人ぞ知るところ。コアなサウナ好きにはひそかに注目される、そんな銭湯だった。
「でも、前回の改築から30年が経ち、配管などもだいぶくたびれてきて。そろそろ修繕…リニューアルの時期かな、と思い始めたのが3~4年前(2018年頃)のことで。お客さんも緩やかにだけど、確かに減っていて、正直、そういう意味での危機感もありました。
もちろん銭湯は地域にとっての大切な場所ですし、もっと盛り上げていかなくちゃいけない。これからこの銭湯をどうすればいいんだろうかと真剣に考え始めたんです」(店主・松本元伸さん。以下同)
「町の銭湯がここまでやるんだ、と思わせたかった」
そんな中で思いついたのが、サウナにより力を入れた銭湯にする構想。松本湯のストロングポイントである「素晴らしい水風呂」も活かせて、新規客を呼び込むことにも繋がるのではないか、と。
「私自身、もともとサウナは大好きだったし、ちょうどその頃マンガやテレビの『サ道』の影響もあって、サウナが注目され始めていて。それで“よし!”と。もう、いろんな施設さんを見て回りました。
東京はもちろん、東海、近畿や九州まで。松本湯と同じ条件…都市部にある銭湯やスーパー銭湯、サウナ専門施設を300軒くらいは訪ねましたね」
全国に点在する人気や話題の施設に足を運んでは、サウナ室や水風呂の温度なども含め、設備を自ら体感。さらにそこでくつろぐ“お客さんの動き”にも注目し、時には感想を語り合ったりもしたそう。
「評判のいいところはどこも素晴らしくて。それぞれ特色や工夫がある。サウナ室がとてつもなく気持ちいい、とか、『ここの水風呂は最高』とか。とんでもない“ととのい”を味わえる施設とか。
でもね、悔しいことに、そういうサウナはどれもがサウナ専門施設や大型のスーパー銭湯のもの。『町の銭湯じゃ勝てないのかな…』とも痛感したんです。それで、『いや、だったら、銭湯でこれ以上のことをやってやろう』『いろんな施設の良さを、全部いいとこ取りしてやる』って、逆に闘志が湧いてきたんですけどね(笑)」