知らないと大損!? 「お金優位」から「人優位」へ変革している日本経済。大重版『13歳からの経営の教科書』著者が教える、「所得は創造できる」時代に身につけたい経営マインド
どんどん物価が上がり、生活が苦しくなる感覚が増している昨今。もはや豊かになることはないのか…と思いきや、経営学者の岩尾先生は「これからは人優位になる」「所得は創造できる」と提言する。その根拠と理由とは。
13歳からの経営の教科書#1
デフレから脱却し「お金優位」から「人優位」へ
——岩尾先生は経営学を専門とされていますが、今ビジネスパーソンが知っておくべきトピックは何でしょうか。
今日本には、経営環境や経済活動全体に関与する大きな変化が押し寄せています。それは社会全体が「お金優位」から「人優位」へと転換しつつあることです。
この変化には、インフレ(好況)、少子高齢化、技術変化という3つの要素が影響しています。インフレとは、お金の価値が下がり、ものや人の価値が上がること。まさに今、物価上昇を実感している人も多いと思います。少子高齢化はすでに周知されている通りで、今後ますます労働者数が減り、人の希少価値が上がると考えられます。
そして生成AIに代表される技術変化の中では「人が不要になるのでは?」という声もありますが、そもそも新しい技術を取り入れていけるのは人間だけ。よって今後ももちろん人間は必要です。
こうした世の中の大きな流れを知っておけば、それぞれの事業や業務に活かせると思います。

——たしかに物価は上昇し少子高齢化も進んでいますが、まだ「人優位」とまでは感じられないのですが……。
今はまだ過渡期なので、ここ30年ほど続いたデフレ(不況)の価値観のほうが色濃く反映されていると思います。デフレではインフレとは逆に、ものや人よりもお金の価値が上がります。そのため、お金持ちがさらにお金持ちになるような状況でした。企業も個人も「いかにお金を惹きつけるか」が重要な要素だったと思います。「金融」「投資」というキーワードが目立っていたのはそういった理由からです。
しかし今後「人優位」になると、お金の価値が相対的に下がるので、企業はお金を持つのではなく人に投資するようになります。すでに、人材を確保するために給与を上げる企業も増え始めました。
私が教えている大学の周辺にある飲食店が「スタッフの賃金を上げられないため休業します」という貼り紙を出していました。一見デフレだと感じるかもしれませんが、これは人がよい条件で働ける場所に流れている証拠なので、インフレの兆しだといえるでしょう。
仕事も家庭も趣味のサークルも…人生さえも「経営」するもの
——ビジネスパーソンは今後どのような能力や価値観を身につけていけばよいのでしょうか。
「人優位」の時代に対応するために、まずは自分の市場価値を上げることが重要だと思います。どの会社にいたとしても「自分にしかできない仕事」を作ること。そうすれば、今後給与交渉や転職をするときに役立ちます。何かのスキルを身につけ、さらに経営的な発想を持てば、副業でビジネスもできるでしょう。
そして今後は「金もうけの経営」ではなく「人を大切にする経営」が一般的になると思います。その中では、投資や金融の技術よりも、人を惹きつける技術のほうが重要になるでしょう。その技術には経営やリーダーシップなどが含まれます。こうしたスキルを身につけた方がいいかもしれません。
——岩尾先生が2022年6月に出版した『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』は、中学生が経営に触れる内容となっています。経営目線を身につけるメリットについて教えていただけますか。
「経営は遠いもの」と感じる方もいらっしゃると思いますが、それは、日頃の業務のパフォーマンスと会社の業績につながりを感じられないからかもしれません。しかし従業員と会社はもちろんつながっていて、従業員がお客様を満足させないと、経営が悪化する可能性は高まります。そして会社が傾いたときに損をするのは従業員です。
なるべくロジカルに、自分と会社のパフォーマンスがつながっていることを理解できると、単なる「やらされ仕事」が「問題解決ゲーム」に変わって、楽しみが生まれると思います。そして仕事の成果にもよい影響があるでしょう。
また「経営」とは会社だけでなく、家庭や趣味のサークルなど、さまざまなチームを運営することでもあります。さらにいえば、一人ひとりが「自分株式会社」の社長ともいえます。経営について学んでおけば、家庭や自分の人生にトラブルが起きたときに、どう考えて行動すればよいのかがわかると思います。

「奪い合う」価値観を「ゼロから創造する」価値観へ変えていく
——小学生や中学生の子どもが経営について学ぶメリットは何ですか。
学校も実は「経営」の対象です。学校で起こるいじめやからかいなども、実は経営によってコントロールできる可能性があります。
例えば、自分が持っているゲームを友人が返してくれず「返してよ!」といってもラチがあかない場合、どうすればよいでしょうか。そのときに自分できちんと考えて「友人はゲームを返したくないのではなく、ゲームがしたいだけなんだな」とわかれば、「うちでそのゲームを一緒にやらない?」という解決策が提案できます。
このように物事を経営視点で考えられると、子ども同士で解決できることが増えると考えています。そして、子どもにそんな力があることを、大人が知ることも大切だと思います。

——『13歳からの経営の教科書』では、中学生同士がさまざまなビジネスに取り組んでいきます。この物語を通して子どもに伝えたかったことは何でしょうか。
伝えたかったのは「価値はゼロから創造できる」ということです。物語の冒頭、主人公は「何かビジネスをしてみたい」という個人的な欲求から行動を起こしました。しかしだんだんと、他人にも応援されるような事業を手がけ、最後には価値のないものから価値を生み出していきます。このように、人との対立が解消し、協力をあおぎながら経営していけば、価値を創造できるわけです。
経営というと「所得の奪い合い」というイメージが強いかもしれませんが、それは固定化された市場内での話。しかし実際のところ、市場はグローバルで拡大しているので「所得は創造できる」と考えています。
資源は有限、でも所得や価値は無限。この価値観が普及すれば、詐欺や強盗などで「人から奪おう」と考える子どもや大人は減るのではないでしょうか。

『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』より
取材・文/金指歩
『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』
(KADOKAWA)
岩尾俊兵

2023年6月29日
1,760円
296ページ
978-4041125687
500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語(小説)を楽しく読むだけで、自然と学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!
(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。
“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。
※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます
関連記事



《日本銀行が止められなかった負の連鎖》なぜ日本だけが長期デフレに落ち込んでしまったのか。バブル経済を放置した80年代の経済政策がそもそもの誤り
孤高の日本銀行はどこに向かうのか?



元ギャル男社長が渋谷のストリートで学んだ日本一のビジネスモデル。“年収1000万円の店舗スタッフ”を誕生させるためにブラック職場のアパレル・小売り業界に起こした革命
リアル店舗を救うのは誰か#1
新着記事
【こち亀】まじめ人間・大原部長が競馬!? 両さんにバレて…
「なかには13歳の少女も」1万円以下で春を売るトー横キッズから20代のフリー街娼、30代のベテラン立ちんぼまで―歌舞伎町の案内人とめぐる「交縁」路上売春の最前線
ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春 ♯3

『フォレスト・ガンプ』と同じ1994年に公開された『パルプ・フィクション』。随所に散りばめられた遊び心と巧みな構成は、マニア受けするダークヒーロー的存在だ!
Z世代の落語家・桂枝之進のクラシック映画噺17
