才能発掘の場兼パーティでもある唯一無二の賞
だが、重苦しいムードを一変してくれたのが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)で助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァンだった。
「私は自分のルーツを決して忘れるなと言われて育てられました。そして、最初のチャンスを与えてくれた人への恩を忘れるなと」
そう言うと、『フェイブルマンズ』(2022/映画ドラマ部門作品賞・監督賞を受賞)チームのテーブルに座ったスティーヴン・スピルバーグ監督に感謝の気持ちを述べたのだ。
そう、クァンといえば、子役としてスピルバーグ監督の『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)に抜擢された過去がある。その後は長く裏方の人生だったが、本作で表舞台にカムバック。ゴールデン・グローブ賞という晴れ舞台で、クァンは恩人に謝辞を伝えることができたのだ。
その後の展開は、涙あり、笑いあり、ハプニングありで、つまりはいつも通りだった。数ある映画賞のなかでも、ゴールデン・グローブ賞は「Party of the Year(1年で最高のパーティ)」と称される。映画だけでなくテレビドラマも対象のため、ハリウッドの人気セレブが一堂に会して、結婚披露宴のように円卓を囲み、お酒も振る舞われからだ。お堅い雰囲気は皆無。実際、ぼくの目の前の『ウェンズデー』(2022)のテーブルにいたティム・バートン監督のもとには、役者たちがひっきりなしに挨拶に来ていた。
一定期間仕事をしたのちに、バラバラになるというノマド的な生活をしているハリウッドのタレントにとって、ゴールデン・グローブ賞は旧交を温めたり、憧れのスターや監督に挨拶する絶好の機会となっているのだ。
ゴールデン・グローブ賞のもうひとつの意義は、新たな傑作や才能の発掘にある。他の映画賞やテレビ賞と比較して、ゴールデン・グローブ賞は新人や見過ごされてきた作品に積極的に賞を与えることで知られている。今年もシーズン2にはいったばかりのシチュエーションコメディ『アボット
エレメンタリー』(2021~)に、作品賞(テレビ<コメディ/ミュージカル部門>)をはじめ、主演女優賞、助演男優賞を授与している。
こうした姿勢は、駆け出しの役者にとっては大きな励みになるはずだ。実際、人気俳優のジョージ・クルーニーも、『ER 緊急救命室』(1994~2009)でゴールデン・グローブ賞を受賞したことが、俳優としてのブレイクのきっかけになったと語っている。
一連の騒動のおかげで、ゴールデン・グローブ賞の価値を再確認できた。来年の授賞式にむけて、今年もたくさんの作品を見ていきたいと思う。