現場はプレミアム汁だらけ。新人男優が残る唯一の道とは…
――男優のデビューは最近ありましたか?
僕の知っている限り新人男優は新法以降ゼロです。一切入ってきていません。いつどこの現場に行っても知ってる顔ばかり。衝撃的ですよ。
もし今後、男優としてデビューできるとしたら男性側がフィーチャーされる唯一のジャンル『女性用AV』が入り口になるでしょう。そこで信用と技術を積んで僕たちのような一般的なAVにくるっていうのが残された道になるんじゃないかと思うんです。ってことは、韓国アイドルみたいなイケメンしか男優になれないってことなんです。それは今後、佐川銀次さん(※)や吉村卓さん(※)のような名男優が生まれないってことです。
イケメン男優ばかりになってしまったら、これまで日本が作り上げてきた、多彩なジャンルのエロスというものがなくなってしまう……
※佐川銀二…昭和の雰囲気が漂うドラマ作品に多く出演する頑固親父な風貌のベテラン男優
※吉村卓…美少女を変態チックに舐め回すことを得意とする個性派男優
――AV業界も映画のように配役に合わせていろんな役者が揃っていたんですね。他にAV新法以降、業界に変化はありましたか?
アルバイト感覚の汁男優(※)がいなくなりました。コロナ禍の影響で大人数モノが減ったのと、不満があるとすぐ契約を取り下げるって思われていたからでしょうか。だから今、唯一仕事が入ってくるのは超ベテランの汁男優だけ。10年、20年と汁で飯を食っている、信頼のおける汁。いわばプレミアム汁です。
※汁男優…自慰行為などをして発射シーンに出演する男優。女優との性行為がなく、出演料は数千円〜1万円程度と安く、副業やアルバイトの出演者も多い
――汁男優がいないとなると、すでに撮れないAVのジャンルが出ている?
はい。その代わりってことでもないですが、新しい男優ができました。『リザーブ男優』っていう……直訳すれば『お取り置き男優』です(笑)。
メインの男優がコロナに感染したなどの理由で来られなくなった時のために、1ヶ月前にリザーブとして契約しておき、自宅などで待機してもらい、いざとなったら駆けつけて出演してもらう男優です。これまであまり仕事が多くなかった男優がリザーブ男優として潤うようになったという現象が起きてます。待機中もギャラが出るので、単純にメーカーさんの負担が増えたわけです。メーカーさんも苦労していますよね。
――リザーブ男優の誕生による弊害はあるのでしょうか?
もともと男優は、個人で活動するため、会社のように先輩から仕事を教わるという機会がないんです。出来るだけ現場に多く入って、そこで経験を積み、演技の幅を広げ、技術力をつけていくしかない。それが、リザーブばかりになってしまうと、その貴重な経験の機会が奪われてしまう……。家でゴロゴロしながらギャラがもらえるのですが、それでは喜んでばかりもいられないんですよ。結果的に、男優としての実力をつけるチャンスが奪われてしまっているから。
つまり、いつまで経ってもリザーブ止まりでトップ男優になれないんですよ。男優としても余程のことがないと現場をキャンセルできないですからね。それこそ体調が悪くても無理して現場にいく男優もでてくると思いますよ。
――このままだとAV業界は縮小してしまう?
実は、すでに男優を抑えられないメーカーが出てきちゃっているんです。もともと男優の数って70人程度と少ないんです。さらにリザーブ男優も必要になってきたから、監督たちは『男優がいない男優がいない』って毎日ヒイヒイ言っている状態。だから、大物の女優さんなのに男優陣が全然、豪華キャストじゃないって状況が起きています。国際試合だからトップメンバーを揃えなきゃいけないのに、予選リーグくらいのメンバーを借り出してきて、なんとか頭数揃えてるような現場になっている。
そんな状況だから、体調悪くて休みたくても休めないでしょ。なのに、新法の関係で出演者の差し替えもできないんですよね。差し替えだけは一刻も早くなんとかして欲しいですよ。