県大会決勝で“川崎対決”が実現

今では、フロンターレの指導者が小学生世代の大会などでほかのクラブの指導者と接するとき、子供たちが抱える課題を克服するためのヒントを求められたり、実際に子供たちを連れてきて、「〇〇のプレーが苦手だから、見てもらえませんか?」と声をかけられたりするようになった。

フロンターレの指導者はほかのクラブの指導者から、プロクラブの育成組織のスタッフだからこそ手に入るノウハウや知見を頼られているのだ。そうした関係について話をするとき、藤原は目を輝かせる。

「みなさんと丁寧にコミュニケーションをとらせていただき、いろいろな取り組みをしてきました。長年にわたって積み上げてきた成果として、今のような関係があるのかもしれません」

実際、さぎぬまSCの澤田代表は、フロンターレのスタッフから以前かけられた言葉を今でもよく覚えている。

「『長年、さぎぬまSCさんがパスサッカーを継承してやってきてくれたおかげで、川崎のサッカーの底上げにつながったと思います』と言われたんです。お世辞半分で言ってくださったのかもしれないですけど、あれは嬉しかったですね」

フロンターレにはプロサッカークラブとしてのプライドがある。さぎぬまSCにも、長年にわたってボールを持つことを大切にするサッカーを継続してきたという誇りがあるし、ほかの街クラブにもそれぞれの特色と伝統がある。

しかし、川崎市という街のサッカーが発展することを祈らない者はいない。その共通の目標のために、お互いが歩み寄ることで、街クラブもJリーグの育成組織であるフロンターレも協力し合う理想的な関係が生まれたのだ。

実際、昨年行われた「JFA 第45回 全日本U-12サッカー選手権大会・神奈川県大会」の決勝戦では、横浜市や相模原市のような人口の多い都市のクラブを抑えて、川崎フロンターレU-12と川崎市麻生区に本拠地を置くFCパーシモンが対戦した。川崎市のサッカーのレベルが底上げされていることを象徴する出来事だった。