2021年東京五輪女子バスケ銀メダルの舞台裏#2 日本代表にフィットしたスモールボールのフィロソフィー_a

 東京五輪で日本チームが華々しい活躍を見せたことで、これから行われる国際大会に向けて各国は日本対策を立ててくるでしょう。海外のチームはやはり「選手が小柄である」という日本の弱点を突いてくるはずです。つまり、ゴールリング付近のインサイドを徹底的に狙ってくるでしょう。

 身長の高い者同士だと、徹底したインサイド狙いは通用しないケースが多いのですが、身長の低いチームを相手にしたときは有効に働きます。事実、東京五輪の決勝戦では、アメリカチームに徹底的にインサイドにボールを集められ、日本は失点を重ねました。今後各国は、こうした対策をしてくるでしょう。
 
そうなると苦戦が予想されますが、日本チームにしかできないプレーにさらに磨きをかけて世界の強豪に立ち向かう覚悟はすでに十分できています。

代表チームで必要なこと

 バスケットボールではチームプレーが求められるので、チームメイトとのコミュニケーションは欠かせません。一緒にプレーするようになってからまだ日が浅い若い選手が相手の場合は、特に意識をして関係構築をしていく必要があります。
 
バスケ選手としてのキャリアが長くなるにつれ、代表チームの仲間たちは年下の選手ばかりになってきました。先輩としてチームをまとめていくために、若い選手たちには積極的に声を掛けるようにしています。代表への初選出で緊張していたり、戸惑っているようであれば、オリンピック経験のある年長者としてチーム全体の雰囲気を和らげ、なじんでもらうようにするのです。

 初めての場で慣れないことをするのは、誰にとっても大変です。気持ちに余裕がなければ、いつまでも実力は発揮できません。初代表ともなれば、プレッシャーも感じているはずです。それを感じさせないような雰囲気を作るのが私の役目です。ただし、代表チームに召集された選手たちは、若いとはいえ優秀な能力を持つ選手たちなので、プレーについての助言は特にしません。

 実際に私がしていたのは、「どんどん思い切ってやっていいよ」と声を掛けることです。声掛けに加えて、自分自身も率先して思い切ったプレーをし、若い選手たちに方向性を示すこともあります。代表に召集されるような選手たちは、こうしたメッセージの意図を素早く理解する能力に長たけています。それがわかっていたので、まずは自分が実践し、それを見てもらいながらチームへのアジャストを促していきました。

 所属チームのメンバーとは違い、代表チームのメンバーとは普段から一緒にプレーしているわけではありません。それだけに、どれだけ短期間でチームを1つにまとめられるかがカギになります。ここで大切になるのが効率です。例えば、代表チームの雰囲気に慣れていないと、気が緩んだときに動きが鈍くなったりしてしまうことがたまにあります。こうなるとヘッドコーチのトムから、「もっと強いパスを出しなさい」「そのパスを受け取った人がシュートを打てると思いますか?」などの指摘が入り、練習が一時中断してしまいます。

 こんなときに代表経験の長い私のような選手ができるのは、練習内容が変わるタイミングで先回りして注意点をチーム内で共有しておいたり、自らが機敏な動きをしてお手本を見せたりすることです。そうすることで練習の中断は避けられますし、時間のロスもなくなります。選手として指導者から受け取りたいのは、パス回しのような基本的な指導ではなく、より高度な次元での指導です。その高度な指導の回数を増やすことがチームにプラスなのは間違いありません。

 若い選手たちも気を緩めようと思っているわけではありません。慣れない環境で余裕がなくなり、意識とは裏腹にいつもの行動ができなくなってしまうのです。そんなときに、さりげなくサポートするのが私のような年長者の役目と言っていいでしょう。