世界のカベを乗り越える!

 外国のチームに比べると、私も含めて日本の選手たちは小柄で細身です。しかし、大きければいいというわけでもありません。小柄で細い選手たちにも強みはあり、そこを強化していけば相手に十分立ち向かっていけます。日本代表チームがプレースタイルを変えたのは、2016年のリオ五輪のあと、2017年にトム・ホーバスさんがヘッドコーチに就任したのがきっかけでした。

 リオ五輪での日本チームのプレーを見て、それまでのスタイルをガラリと変えない限り世界では勝てないという結論に至ったのではないでしょうか。ちょうどそのころ、米NBAのゴールデンステート・ウォリアーズがスモールボールと呼ばれるプレースタイルを取り入れていました。

 スモールボールとは、運動量とシュートの成功率を上げることによって、相手チームとの身長差をカバーする戦い方のことです。このスタイルでは、選手たちは3ポイントラインの外側に出ていきます。通常は3ポイントラインの内側にいるセンターもラインの外に出ていき、マッチアップしている相手のセンターをゴールリング付近から遠ざけるようにするのです。

 これにより、3ポイントラインの内側に広いスペースができるため、ドライブ(ドリブルでディフェンスを抜いてゴールに向かうこと)やカッティング(パスをもらってシュートを打つために相手のディフェンスに切り込むこと)がしやすくなります。このスモールボールを取り入れたのが、ゴールデンステート・ウォリアーズでした。身長の低い選手が多かったにもかかわらず、ウォリアーズは2016 −2017年シーズン、2017 −2018年シーズンを制し、NBAファイナルで連覇を成し遂げます。

 元NBA選手でアメリカ人のトムが新ヘッドコーチに就任したのは、ちょうどスモールボールが注目されていた時期だったのです。

日本代表チームの変貌

 私が元々得意としているのは、チームメイトのプレーに合わせながらパスをもらってジャンプシュートしたり、ゴール下でリバウンドを取ってシュートしたりするプレーです。ところが、新体制になった2018年からは代表チームのプレースタイルがスモールボールに変わり、シュートエリアを広げて3ポイントシュートを打つ機会が増えました。

 それまでよりもシュートエリアが広がったため、スペーシング(スペースの作り方や使い方)をうまく活用しつつ、3ポイントシュートを阻止されたときは、素早くドライブを行い、ジャンプシュートやゴール下からのシュートに挑む必要があります。外国の選手を相手にしなくてはならない国際大会では、自分よりもフィジカルが強い相手に対して、どれだけ上手なドライブを仕掛けられるかが問われるようになったのです。

 反対に、相手選手から激しいドライブを仕掛けられた際には、視野を広げて相手のオフェンスを食い止めなくてはなりません。スモールボールを取り入れたことで、私の役目はそれまでとはずいぶん変わりました。

 日本チームの変貌を見て、スモールボールを取り入れようとするチームも出てきています。例えば、中国の代表チームです。中国の代表チームには大きな選手が多く、それまではフィジカル重視でプレーするスタイルでした。ところが最近では、日本チームのようにスピードや3ポイントシュートに力を入れ始めています。
 
東京五輪のとき、私にとって中国チームは最も対戦したくない相手でした。日本は現在、2年ごとに行われるFIBA女子アジアカップで5連覇しています。しかしそれまでは、中国が圧倒的な強さを誇っていたのです。元々強かったチームが、スピードを増し、3ポイントシュートの精度を上げていったとしたら……。
 考えれば考えるほど、中国を避けたい気持ちになりました。結局、日本は一度も中国と当たらずに済んだので、彼らの変容ぶりにはまだ触れていません。


写真/アフロ

『苦しい時でも一歩前へ』
髙田真希
2021年東京五輪女子バスケ銀メダルの舞台裏#1 日本代表を変えた名将トム・ホーバス_b
2022年3月30日発売
1,650円(税込)
新書判/208ページ
ISBN:978-4-04-112245-7
中学校から本格的に始めたバスケットボール。貧血と診断され、練習でもひとり追いつけず苦しいことも多かった名門・桜花学園時代。複数のチームからオファーがあったなか、自ら選んだデンソーアイリスへの入団。日本代表主将としてチームをまとめ、バスケットボール界初のオリンピック銀メダル獲得。一方、30歳を機に立ち上げたTRUE HOPEでアスリート兼社長としての活動をするなど、精力的に様々なことに挑む高田のポジティブ思考の原点がわかる!
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