好きなこと・嫌いなことで浮かび上がる個性
登場人物の誰もが、不器用で人間らしい一面を持っているこの作品。複雑なキャラクターを描くため、それぞれの好きなこと・嫌いなことを描写する手法が用いられている。
例えばアメリの好きなことは豆の袋にこっそり手を突っ込むこと、クリームブリュレのお焦げをスプーンで割ること、嫌いなことは昔のアメリカ映画に出てくるわき見運転シーン、などといった具合。
些細なことだが、その人物との距離が一気に近くなったような錯覚を覚える。
この作品は、監督のジャン=ピエール・ジュネが1989年に製作した短編『ぼくの好きなこと、嫌いなこと』を基にしているのだが、感覚的な行動の描写に思わずウンウンと共感してしまった。
そして丁寧なのはキャラクターメイキングだけではない。
柔らかさや暖かさを感じさせる照明の色味や、赤と緑の計算されたコントラストなど、美的感覚に対する強いこだわりを感じるのはさすがフランス映画らしいポイントだ。
アメリの人生が走り出してから次第に周りはアメリ色に染められ、見ているこっちまでどんどんと温かい気持ちに包まれる素敵な映画体験だった。
人々の生きづらさを肯定するメッセージも含まれている本作。現在も多くの人がこの作品に出会い、ファンになっている背景には、そのメッセージ性が時代を越え、マイノリティを感じている今の人にまで伝播しているからではないだろうか。
文/桂枝之進
『アメリ』(2001)Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain 上映時間:2時間2分/フランス
フランス本国はもちろん、日本でも記録的な大ヒットを記録した、ジャン=ピエール・ジュネ監督のロマンティック・コメディ。空想好きの女性アメリ(オドレイ・トトゥ)は、他人を幸せにする喜びに目覚め、人々に様々なおせっかいを始めていく……。